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BIOTOP PEOPLE

No.42 TAKESHI MORI

TAKESHI MORI
BIOTOP PEOPLE No.42 TAKESHI MORI FOOTWORKS
表参道でオーダーメイドのインソールを作るショップ
「FOOTWORKS」を主宰する森健さんが、このたびサンダルを製作した。
インソール職人としての知識と経験を生かし、上手に体重を乗せられるよう
設計されたサンダルは5月7日よりBIOTOPにて販売される。
まっすぐに歩ける技術を搭載し、機能性だけでなく
どんなスタイルにも合いそうなシンプルなデザインも注目。
この画期的なサンダルが生まれたきっかけやエピソードを、
ディレクター迫村が森健さんに聞いた。

迫村 数年前、誰かからインソールをオーダーメイドで作る店があると聞いて、当時下北沢にあったお店を訪ねたのが森さんとの出会いでした。最初にアトリエを構えたのが下北沢だったんですか?

森 もともとは神奈川で父と一緒にやっていたのですが、独立して10年くらい下北沢にいて、そのあと現在の表参道に移りました。

迫村 なぜインソール職人になろうと思ったんですか?

森 父がインソールを作っていて、それを子供の頃から見て育ちました。高校生くらいから実際手伝うようになり、23歳から本格的に仕事にして、いったんドイツに勉強しに行ったのですが、帰国後再びインソール作りを続けています。

迫村 親子でインソール作りをしているわけですね。ではお父様はなぜインソールを作り始めたのですか?

森 父はすごく変わっていて、独学でインソール作りを始めたんです。最初は山登りの道具を扱う店、今でいうアウトドアショップで働いていたのですが、自分自身もあまり合う靴がなかったみたいで、詰め物をしたりして靴を合わせていたらしいんです。そのうちお客様にもそういうアドバイスを始めて、靴の修理も手がけるようになり、やがてスキーショップも始めました。その頃、母が偏頭痛や肩こりがひどくて朝起きられなくなって、整体院に通うようになりました。行くとその時は良くなるんですが、すぐに元に戻ってまた整体院に行くという繰り返し。そのうちその整体院に通っている他の常連たちとも顔見知りになったんですが、母も含め皆、施術後は体がまっすぐになっているのに靴をはいて歩き始めるとすぐに元に戻っている。ということは歩き方と靴に原因があるんじゃないかと父は考えたらしいんです。

迫村 なるほど。それでインソールを作ろうと思った発想がすごいですね。森さんが自分も同じ仕事をしようと思ったのはなぜなんですか?

森 小さい頃から父の仕事を見ていて、中学生の頃には自分もやろうと決めていました。普通のお店は、お客様に何かのサービスを提供してお金をいただき、お客様がおかえりになるときにありがとうございましたと言いますよね。でも見ていると、インソールを作ったお客様のほうがありがとうって喜んでいるように見えたんです。そんなにお客様に感謝される仕事ってすごいなと思いました。大人になるにつれて他の世界を見てみても、この仕事以上にやりたいと思えるものに出会えなかったんです。

自分の歩き方を確認するためにも、毎朝10kmのランニングを欠かさないという森さん。

迫村 僕が初めて下北沢のお店にうかがったときに驚いたのは、すごくファッションを感じさせる空間だったこと。行く前は勝手に、スポーツ医学に特化した、いわゆる接骨院みたいな場所をイメージしていたんですが、入ったらインテリアはかっこいいし、スティーブン・ハリソンの花瓶とか置いてあるし、何この審美眼!と驚いたんです。着ている服や使っているものから、きちんといいものをセレクトして長く使う人なんだなということがわかった。ていねいに暮らしているんだなと。インテリアやファッション、アートなどのセンスはどこで身につけたんですか?

森 自分ではよくわからないんですが、たぶん父がそういうことにまったく興味なかった反動かもしれないですね。お店はいつも散らかっていて、ここはお客様を呼ぶ空間じゃないと幼い頃から思っていました。もし自分がやるなら、きれいな場所でこんな風にやりたいなと、常に想像したり調べたりしていました。僕は嘘が嫌いで、自分が本当にいいと思うことしかしたくないし、いいと思う場所しか行きたくない。いいと思う人としか会いたくない。それを貫いているうちに、自分がいいなと思うものが集まっている場所は表参道だということに気づき、いつかショップを構えようと思っていました。それで2年前にようやく実現したんです。

迫村 ここもすごく居心地のいい空間だからお客様もリラックスできそうですね。今までたくさんのお客様と接してきて、もちろん一人一人足型は違うと思うのですが、何か傾向とか共通点とかあるんですか?

森 人はまっすぐ正面に向かって進みますが、単純にその方向に体を使えていない。だから体がゆがむんです。車にたとえるなら、まっすぐ進みたいのにハンドルとタイヤが外を向いているというような状態。それでも無理やり前に進もうとするとゆがみますよね? 足が前を向いていないので、一歩一歩足を無理にひねりながら歩いている人が多く、それを続けると全身にゆがみが生じてしまうんです。

迫村 具体的にどうやってインソールを作っていくんですか?

森 お客様が店に入っていらしたときに、歩き方を見ればどこがねじれているかわかるので、どういうインソールを作ったらいいか何となくわかりますね。靴を脱いで台に上がっていただくのですが、そのときにどちらの足から上がったとか、なぜねじれやすいかという原因もわかります。それで足型をとると「ああ、やっぱり」となります。どこに多く体重が乗っているかは、見ればだいたいわかるので、足型をとって最終確認するという感じですね。でもそれを言うと、みんな入ってくるときに歩き方を意識するんです。(笑)意識しても絶対にふとした瞬間に癖は出ますけれど。

迫村 インソールを使い始めてから、どのくらいで効果が出ますか?

森 けっこうすぐ出ますよ。使い始めてからの様子も見たいので1カ月後くらいに調整にいらしていただくのですが、そのときには良くなっていることが多いですね。

FOOTWORKSが製作したサンダルは、BIOTOP白金台、大阪、福岡にて5月7日より販売。サイズは22.0cmから0.5cm刻みで28.0cmまで13サイズ。¥52,800

迫村 今回はオーダーメイドではなく初めてプレタポルテとしてサンダルを作ったわけですが、きっかけは?

森 とにかくまっすぐ立って、まっすぐ歩くことだけを考えて設計したサンダルです。「COMOLI」デザイナーの小森啓二郎さんは、もともとインソールと靴を作りにいらしていたんですが、あるとき小森さんにサンダルが欲しいと言われて。それまで自分的には「サンダルで全身を支える強度を出すのは無理」と決めつけていたのですが、小森さんからのリクエストだったので、とりあえず二人分だけ作ってみたら思ったよりいい感じに仕上がりました。小森さんに「これは絶対、商品にしたほうがいい」と言われて、それでいろいろ動いているうちに本当に商品化されることになったんです。

迫村 僕も履いてみましたが、歩きやすいし、なんだか体がしゃんとするという感覚がありました。ファッションアイテムとして考えてもどんな服にも合いそうだし、それで体がよくなるなら買う理由はあると思いました。

森 昨日初めてインソールを作りにいらした方が、発売前のこのサンダルを履いて歩いてみて、すぐに「これどこで買えますか?」と。まずはBIOTOPだと答えると、その場でお店に電話して発売日を聞いていましたね。(笑)このサンダルもインソールと同じように道具だから使い方が大事なんです。5月7日と8日でBIOTOP大阪に行かせていただきますが、そこでお客様にこう履いてほしいと、直接伝えたいと思っています。

迫村 そろそろ夏用の靴が欲しいと思う時期だから、タイミング的にもちょうどいいかも。僕たちはもちろん普段からいろいろな靴を売っているわけですが、ファッションアイテムとして売っているので、お客様も見た目が気に入って試しても、履き心地はどうか気にされるときがある。でもこのサンダルは履いた瞬間に感じるものがあるはずだから、森さんから直接話を聞けたら、このサンダルの良さをさらにわかってもらえると思います。

森 初めてお披露目するのがBIOTOPなので、反応が楽しみです。

迫村 BIOTOPで最初に取り扱いできて本当にうれしいです。何年か前、思い切って下北沢のお店に行ってFOOTWORKSを知ることができてよかった。このサンダルで最もこだわった点は何ですか?

森 まずは、とにかく多くの人がいい位置に体重をかけられるよう設計したこと、そしてしっかり固定できるようにしたことです。僕はデザイナーではないのでデザインしたというよりは設計して、見た目としては質感にだけこだわりました。サイズは22cmから28.0cmまで、木型は全部同じですが女性にも合うと思います。

迫村 普段インソールを作りにくるお客様は、男女どちらが多いですか?

森 圧倒的に女性ですね。女性はやはり美容に興味があるので、それを追求すると立ち方や歩き方、姿勢が気になるようです。あとやはり新しいものを取り入れるのは、女性のほうが積極的なのだと思います。今回のサンダルを見て初めて知ってくださる方も多いと思うので、サンダルを履いて気に入って、インソールを作ってみようかなと思う方が増えたらうれしいですね。想像したよりいいものができたと感じています。僕はいつもオーダーメイドで一足一足作っていますが、既製品を作っている人ってたくさん作るからプレッシャーも大きいだろうし、いろいろな制約のなかで多くの人が納得できるものを作るってすごいことだなと改めて尊敬しました。

迫村 このサンダルは今後も継続していくんですか?

森 そうですね。来年もしかしたら1色増えるかもしれないです。あと来年の冬頃になりそうですが、トレッキングシューズを作りたいと考えています。なんだか自分の頭が固くて、既製品なんてできるわけないと思い込んでいましたが、尊敬する小森さんから提案していただいて本当にいいきっかけになりました。もっと早くやればよかった。(笑)

お客様一人一人に作っている、どこに体重を乗せて歩いているかが一目でわかるフットプリント。濃いブルーの部分が体重をかけている場所。

Photo / YOSUKE EJIMA Composition / AYUMI MACHIDA

森 健
Takeshi Mori

1982年神奈川生まれ。父はインソールの第一人者である森公一。大学卒業後ドイツへ留学し、帰国後FOOTWORKSを立ち上げる。オーダーメイドのインソールを作りながら、オーダーメイドインソール専用シューズのライン「TAKESHI MORI」も展開。2022年5月よりサンダルの販売をスタート。
https://www.footworks-tokyo.com

Interview with

BIOTOPディレクター
迫村 岳

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