menu
BIOTOP PEOPLE

No.48 AIMI SAHARA

AIMI SAHARA
BIOTOP PEOPLE No.48 AIMI SAHARA 「Tu es mon Tresor」DESIGNER
女性の視点から、女性の体型や感性に寄り添ったデニムを提案する 「Tu es mon Tresor」のデザイナー、佐原愛美さん。 今年1月に発売したë BIOTOPとのコラボデニムは、肌触りがよく美しいシルエットが人気を呼び瞬く間に欠品したが、6月15日より再販が決定した。 これを機に、女性の心をとらえるクリエイティブなデニムが生まれる背景を佐原さんに聞いた。

曽根 今日はお時間をいただきありがとうございます。3年前、「Tu es mon Tresor(トゥ エ モン トレゾア、以下トレゾア)」がリブランディングしたタイミングでご連絡をいただいてからずっとお付き合いさせていただいているので、かしこまってお話するのが少し恥ずかしいですが、改めてブランドのストーリーなどをお聞かせいただけたらと思っています。

佐原 リブランディングしたときは、構想としてライフスタイルに近いファッションというコンセプトがあったので、ぜひBIOTOPで取り扱っていただけたらいいなとお声がけさせていただきました。

曽根 最初の印象は、いい意味でデニムブランドらしくないと感じました。ビジュアルにもとてもアート性を感じて、自然と興味が湧きました。シンプルななかに女性らしいこだわりが詰まったデザインや価格帯もいいし、実際はいてみたら、丈感やデニムの色味がとてもマッチして、これはよさそう!と直感で思いました。何よりもブランド名がかわいい! 「Tu es mon Tresor」って、英語なら「YOU ARE MY TREASURE(あなたは私の宝物)」ですよね? そのワード自体がキャッチーだし、デニムの品番名が“アメジスト”とか“ダイヤモンド”など宝石名になっているところも女心をくすぐります。ボタンホールに使っているステッチが、宝石の色と連動してグリーンやレッドだったり。今は慣れたのですぐわかりますが、最初は「エメラルドが…」と言われてもすぐにどれだかわからなかった(笑)。リブランディングしたきっかけは何だったのですか?

佐原 2010年にブランドを始めて、最初にロンドンのブラウンズというショップに飛び込みで売り込みに行ってから10年くらい、ほぼ海外のみで展開していました。昔からフェミニンなものが好きでしたが、ブランドが10年続いて、その間に社会が成熟し、私自身も年齢を重ねたことで成長し、フェミニンに対する解釈が自分の中で変わってきたのです。それで10年かけて培ったノウハウでもう少し表現を広げてみたいと考えるようになりました。同時に、取引先が増えてビジネスが拡大すると共に、ファッションのシステムの中で早いサイクルで新しいものが求められることに疑問を感じるようになりました。人生のほとんどの時間をファッションに費やしてきたのに、これが自分のやりたいことなのかなあと。本当にやりたいことは何だろうと改めて考えたときに、もともとのコンセプトだった女性のための服を作りたいという思いに立ち返って、一から物づくりを始めてみようとリブランディングを決心しました。

初期のトレゾアのデニムにはパールの飾りなどがついて、フェミニンをわかりやすく表現していたが、時代と共に、引き算をしてもフェミニンは表現できるとリブランディング。女性の体やライフスタイルに寄り添うデニムを提案。

曽根 そのタイミングで、最初にBIOTOPにお声がけくださったんですね。

佐原 ずっと早いサイクルで作り続けてきて、日本できちんと展示会をしたことがなかったので、リブランディングを機に日本でもしっかり展開していきたいなと考えていました。自分が住んでいる日本で展開するのだから、やはり感覚を共有できるところがいいと思い、真っ先にBIOTOPが思い浮かんだのです。BIOTOPのコンセプトも、フェミニンな要素がうまくミックスされた曽根さんの感覚も以前からとても好きだったので。

曽根 ありがとうございます。フェミニンの解釈ってじつはすごく難しいですよね。年齢を重ねると、ファッションの文脈のなかでとらえなくてはいけないのかな、大人になるとかわいいものが好きなだけではいけないのかな、という気持ちになることがあります。だから女性目線のデニムという発想がとても新鮮だったし、最初にお会いしたときに佐原さんが意外とフェミニンな方だと感じました。フェミニンなものが好きな人って、会ったときに何か通じるものがありません? 年齢も近いし、かわいいと思うポイントが似ているところもあって、もっとお話してみたい、もっといろいろ引き出してみたいと強く思いました。

佐原 昔は本当にかわいいものが大好きでしたが、ブランドを10年続けるうちに自分も成長して、ライフスタイルはもちろん、自分の内面と洋服の親和性のようなものやフェミニンのとらえ方などが、少しずつ変わっていきました。全体のバランスを考えるようになって、フェミニンとマスキュリン、かっちりしたものと柔らかいものなど、相反するものの組み合わせをもっと取り入れていったほうが、よりフェミニンを際立たせ、着る人が主役になれるのではないかと思うようになりました。

曽根 とことん女性の心に寄り添った物づくりをしていることが、とても素敵です。新しいものを生み出すときは、どのように考えているのですか?

佐原 デニムだけのコレクションになってからは一貫したコンセプトで、シーズンごとのテーマやトレンドというよりも、もっとクラシカルで普遍的なものを作りたいと考えています。お店に行って、いろいろな方のフィッティングを見ていると、その方のライフスタイルや体型がさまざまで、最初に作った6型では足りないと思うようになり、少しずつ型を増やしていきました。どんなスタイルでも、トレゾアのデニムをはくだけで素敵になったらいいなと思いながら作っているのですが、だんだんファッションの背景にある暮らしにも興味が広がってきて、新しい試みを始めました。2022年には熱海にある、建築家の吉村順三が手がけた古い邸宅を舞台に「1977-」というインスタレーションを行いました。美しい暮らしとは何だろう、美しいファッションとは何だろうという問いかけから、改めて服を作ることを表現していきたいと思いスタートしています。

デニムは最初6型だけだったが、季節、着る人の体型・個性、ライフスタイルなどさまざまな要因を考えているうちにどんどん増えていったという。「何を合わせても、トレゾアのデニムなら素敵に決まるといいなと思っています」

曽根 熱海の「1977-」には2度伺ったのですが、夏休みのような気分になって心地よい時間を過ごさせていただきました。わざわざ行くかいがありますね。皆さんそれぞれの楽しみ方があるようで、ブランドの世界観を堪能する方もいれば、ゆったりと土地の空気を味わう方もいるし、美しい空間や家具に酔いしれる方もいる。東京ではない場所で表現すると、また違った見え方になるのだととても刺激を受けました。

佐原 そうですね、世界観を作るということはとても大切にしていることの一つです。ただ服を作るだけではなく、どんな視点で、どういうイメージで作っているかを着てくださる方と共有したいので、できるだけ写真や空間などの表現で伝えたいと思っています。その一つのかたちが「1977-」というプロジェクトで、昨年は八ヶ岳でライブパフォーマンス「1988-」も開催し、今年もまた6月から熱海の「1977-」にて、LAのカクタスストアとコラボレートしたサマーガーデンをオープンしています。世界観というところで繋がることができるブランドになれたらいいですね。

曽根 世界観を大切にしたいという思いにはとても共感します。何かを作っていて広げようとするとどうしてもブレやすくなるので、自分の軸は最も大事にしなければいけないポイントですよね。そのことをトレゾアさんから学んだと思います。

「フェミニンが好きな人は会ったときに何か通じるところがある」(曽根)。「フェミニンな要素がうまくミックスされた曽根さんの感覚が好き」(佐原さん)

佐原 私もё BIOTOP(ヨー ビオトープ)とコラボレートするときに、曽根さんの考えている世界観や女性像が伝わってきてとても共感できました。個人的にも愛用させていただいているブランドだし、バイヤーを長くされていて、その豊富な知識と視点から生まれるアイテムだからこそ、組み合わせやすく今の気分を取り入れやすい、考え抜かれたスマートなブランドだなと感じています。一緒にお仕事させていただいてとても楽しいし、リスペクトしています。

曽根 うれしいです、ありがとうございます! コラボデニムを作らせていただく過程もとても楽しかったです。もしё BIOTOPにデニムがあったら? と考えたときに、もちろんオリジナルで作ることもできましたが、やはり信頼しているデニムブランドと一緒に作ったら世界が広がると思い、トレゾアさんにお願いして、私が愛用している“ラピスラズリ”という型を基本に一緒に作っていただきました。トレゾアさんのデニムって、本当にはき心地がいいですよね。お尻まわりがゆったりしていて、年齢を重ねた体型にもやさしくフィットします。以前BIOTOPで展開したときには“エメラルド”がすごく人気でしたが、トレゾアさんのデニムには、はいてみたいと思わせる魅力がありますよね。

佐原 コラボレーションでは、曽根さんからすごく細かいリクエストがたくさんあったので、それをできるだけ反映させるということと、やはりё BIOTOPの都会的でクリーンなイメージを少し強めに出して、曽根さんの世界観を自分の経験やバランス感覚で実現していくという作業でした。曽根さんにスタイリングイメージが明確にあったので、とても仕事がしやすかったです。

左)再販するデニムは、ストレートのソフトフレアタイプで、白と黒の2色。レングスは28と30の2種。¥42,800(税込)/ë BIOTOP×Tu es mon Tresor
右)6/15(土)にë BIOTOP青山店でシャイナが制作した「SWANS」ブックローンチイベントを開催。ケータリングでは、レストラン“LIKE”が制作したスワンシュークリームを提供予定。

曽根 12月に発売して、初日で小さいサイズはほとんど売れてしまうほど人気でした。佐原さんにも接客していただき、とても親身になって時間をかけて対応してくださるので、見ていて温かい気持ちになりました。そのデニムが6月15日から再販できることになり、とてもうれしいです。発売日の6月15日にё BIOTOP 青山店で何かイベントを開催したいと考えていたら、佐原さんがNYのスタイリストでありアーティスト、シャイナ・アーノルド(@shayna_arnold)を紹介してくださって、お店でブックローンチができることになりました。彼女が、自分の妹をモデルにスタイリングして撮影したとてもかわいらしい写真集で、私はパリで見つけて買っていたんです。しかも私はもともとシャイナのファンで、7年前くらいにNYの「マリアム ナッシアー ザデー」のお店に行ったときに、当時そこでバイトをしていたシャイナがあまりにかわいいので写真を撮らせてもらったことがあるんです。いつか仕事で繋がったらいいなと思っていたので今回のご縁に感謝です。佐原さんが繋いでくださったということも、よりうれしいですね。当日はシャイナも来日し、彼女の写真を使って一緒に作ったTシャツも販売する予定です。

佐原 2年前にシャイナにスタイリングをお願いして以来連絡を取り合っているのですが、東京でブックローンチをしたいという相談を受けたときに、曽根さんとシャイナが感覚的に合うような気がしたんです。シャイナも私たちと同世代ですが、NYをベースに活動しているので、より自由度が高くて、日本にいる私たちから見ると憧れるスタイルですよね。

曽根 スタイリングだけではなく、生き方の自由さみたいなものも取り入れたいし、それがブランドのパワーにつながりそうです、女性にとってプラスとなるエネルギーが生まれればいいなと思います。

佐原 BIOTOP白金台でも毎年6月にポップアップをさせていただいていて、今年は熱海の「1977-」のプロジェクトを再現します。今回の「1977-」では、LAのカクタスストアというランドスケープデザインチームの方々とお庭のデザインをしたのですが、そこから派生したガーデン・ワークシャツをBIOTOP白金台で販売する予定です。

曽根 カクタスストアとは、どのようなデザインスタジオなのでしょうか?

佐原 主にサボテンや多肉植物を使ってお庭をつくるランドスケープデザイナーかつ庭師であり、その他にも、洋服をデザインする人がいたり、陶芸をする人がいたり、絵を描く人がいたりと、いろいろな才能あるアーティストが集まった集団で、以前からずっと気になっていました。曽根さんや私とも通じる、同世代ならではの感覚を持っていて、ただ古いものが好きではなく、古いものをどうアップデートして表現するかという、トレゾアのデザインの考えに共感して今回のプロジェクトに取り組んでくれました。

曽根 佐原さんはこの間LAに行かれていましたね。自然に触れてとても楽しそうでした。佐原さんは自然のなかで過ごすのがお好きですよね。

佐原 そうですね。以前よりもさらに自然のなかでリラックスする時間が大事に思えるようになってきました。まだ初心者ですが、ここ2年くらいガーデニングが好きで、家の庭の手入れをするのが楽しいです。あまり時間がないのでそこまでいろいろなことはできませんが、ハーブや果実を育てたりして、ハーブティーや果実酒を作ったりもします。

曽根 趣味がクリエーションに繋がっているのですね。

佐原 自然界にあるものからデザインを学ぶことが多いです。自然の色彩や花、木、葉の形などは、本当に秩序があって美しく、そこからとても影響を受けていると思います。

曽根 思いが伝わります。デニム1本1本にも、その思いが宿っているような気がします。

佐原 泥だらけになって無心で作業をしています。子どもの頃は服を汚しちゃだめだと親に言われていましたが、今は大人なので気にせず好きなだけ汚していますね。デニムを土に埋めてみたり、花を煮出してそれでデニムが染めたりと、自由に実験しています。あとは、寝る前の読書も趣味の一つです。

トレゾアがカクタスストアとコラボして制作したガーデン・ワークシャツ。熱海の「1977-」のほか、BIOTOP白金台のポップアップストアでも販売予定。優しい色合いで、ユニセックスなデザインで3サイズあり。庭仕事の道具が入るよう、ポケットがたくさん付いている。各¥48,400(税込)/Tu es mon Tresor

曽根 どういった本を読まれるのですか?

佐原 海外の作家がほとんどで、北米や中南米文学が好きです。ルシア・ベルリンやリディア・デイヴィス、ミランダ・ジュライなどの女性作家の作品は、先進的で影響を受けることが多いですね。そういった作品に触れて、刺激されて、それをファッションを通してアウトプットします。

曽根 なにかおすすめはありますか?

佐原 詩だと短いから読みやすいかもしれません。今日は曽根さんにおすすめしたい詩集を持ってきたんです。『プラテーロとわたし』という、スペインの詩人、ファン・ラモン・ヒメネスの作品です。

曽根 佐原さんとお話していると、いつも言葉の選び方がきれいだなと感じますが、本をたくさん読んでいらっしゃるからなんですね。詩集、じっくり読ませていただきます。ブランドとして、今後はどんなヴィジョンをお持ちでしょうか?

佐原 今まではずっとジーンズに絞ってコレクションを作ってきましたが、作りたい世界観をジーンズだけで表現するのが少し物足りなく、せまく感じるようになってきました。これからはもう少し広げて提案できたらいいなと考えています。自分が求めているアイテムの理想がどんどん高くなっているので、いきなりトータルでは難しいかもしれませんが、少しずつジーンズ以外にコレクションを広げていきたいです。女性のためのセーフプレイスを作るというのが自分の人生にとって大きな目標なので、そういった活動ももっと広げていけたらいいですね。

曽根 佐原さんの世界観が、どんなアイテムに落とし込まれるか気になります。ブランドの世界観をまといたい、何かを持って帰りたいという思いにどう答えてくれるのか、とても期待しています。

Photo/Daehyun Im Composition/Ayumi Machida

佐原愛美
Aimi Sahara

「Tu es mon Tresor」デザイナー。1985年生まれ。2010年にブランドをスタートし、2020年にデニムブランドとしてリブランディング。
https://ja.tu-es-mon-tresor.com/

Interview with

曽根 英理菜/ё BIOTOP ディレクター
Erina Sone

Back Number