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BIOTOP PEOPLE

No.29 TAICHI HARA

TAICHI HARA
BIOTOP PEOPLE No.29 TAICHI HARA
2019年3月15日、白金台BIOTOPの3階に新しいレストランがオープンする。
「LIKE(ライク)」という名で、多国籍料理とヴァン・ナチュール、
そしてカクテルが楽しめるこの店を手がけたのは、原太一シェフ。
渋谷「ビストロ ロジウラ」、代々木八幡「PATH」に続く3店舗目はステージを兼ね備えた新感覚のレストランであり、長年温め続けた新しいアイデアが詰まっているという。
どんなお店を目指しているのか、オープン直前のシェフに聞いてみた。

「ビストロ ロジウラ」はフレンチ、「PATH」ではパティシェの後藤裕一さんと共同経営で、ベーカリーを充実させた原太一シェフ。3店舗目での新たな挑戦は、多国籍料理とカクテル、そしてステージのあるレストラン。さまざまなアイデアが結実しそうだ。

迫村(以下S) 友人に誘われて「PATH」に行くようになったのですが、いつも閉店まぎわに滑り込むという失礼な客ですみません(笑)。でもそのまま閉店後の原くんと飲んだりして、いろいろな話ができるのが楽しくて。仕事としてはBIOTOP大阪での「ALLEGE」のイベントが最初でしたよね? ブランドを、服だけでなくもっと広い世界観で感じてほしいと思って、原くんにスペシャルディナーを作ってもらった。あれはお客様にとても評判よく、うちのスタッフも大いに刺激を受けました。

原(以下H) 大阪のイベントでご一緒させていただいたスタッフも、白金台のスタッフも、迫村さんとの距離感が絶妙。友だちのようでいて、お互い慕ったり敬ったりしていて、すごく素敵だなと思いました。迫村さんの僕に対する接し方もそれと似ていて、フレンドリーでありながら、仕事のことはきちんとリスペクトしてくれる。僕がやっていることをいいと思ってくれているんだなということが伝わって、すごく信頼できる人だと思っています。

奥のバーカウンター。カウンターは2カ所あり、合計10席。テーブル席は合計18席の予定。

S 以前、原くんに「何で料理の世界に入ったの?」って聞いたら、「料理だけじゃなく、音楽も、洋服も、内装も、自分の好きなものが一度に実現できるのが飲食店だったから」と言われたのがすごく印象的だった。僕はおしゃれが好きだから洋服を仕事にしたけれど、今は洋服以外の分野にもいろいろ興味の幅が広がっているので、原くんの言っていることがすごくわかるんです。だから白金台の3階を新しいレストランに……と考えたときに、僕はぜひ原くんにお願いしたいと思いました。しかしすでに2店舗あるうえ、白金台というアウェーな土地でよく引き受けてくれたよね。お願いしておきながら何ですが、本当に大丈夫なのかなと……

H かなり心配してくれましたよね(笑)。

S でも、やると決めたら貫くところは、原くんって男らしいなと思ったよ(笑)。引き受けたあと、まず何を考えましたか?

H 僕はお店を始めるときに市場調査などは一切せず、自分がやりたいことが実現できるかどうかを優先するんです。ここを見たときに、ずっとやりたかったことのひとつがついにできる!と思いました。それはステージを作るということ。アイデアはずっとあったんですが、一生実現するはずのない夢だと思っていたんです。でも僕ひとりなら絶対に見つけられない、こんな広くて素敵な空間を見て、ここならできるかもしれないと。だから僕としては夢がひとつかなうという感じなんです。

注目のステージ。音楽が大好きだという原シェフが、詳しい人に相談して揃えた機材が並ぶ。大きなスピーカーはJBL4344のケンリック・サウンドモデル。ギターはシェフの私物。文化祭でバンドをやっていたころの思い出深いもの。

S 最初はステージを作ると聞いて、ハードロックカフェか!?とちょっと驚いたけどね(笑)。なぜステージを作ろうと思ったんですか?

H 昔行ったNYのバーで、小さなスペースに5〜6人のミュージシャンがぎゅうぎゅう詰めで演奏しているのを見て、その空気感にハマってしまったんです。すごく音が大きかったのですがまったく気にならず、みんなテンション上がって、楽しく飲んで会話も弾むという最高の雰囲気。あの感覚がずっと僕の中に残っているんですね。実際は営業中にここで演奏するつもりはないんですが、偶発的にジャムセッションが始まっちゃったりしたら面白いな、なんて思っています。みんながお酒を飲みながら楽しそうに音楽を聴いている光景がここで見れたらうれしい。もちろん、飲食店として完璧にしてからの話ですけどね。

S 原くんはかなりの音楽好きだよね。エディターとしてライブレポート書いたり、プーマブルーのライブのときは前座でDJをやっていたよね。

H 僕には何人か思い入れのある海外のアーティストがいるんです。そこまで売れてはいないけれど、スポティファイには入っているくらいの知名度の。その人たちを呼んで、ここでライブをしてもらえたら最高だなと思っています。願わくば、録音してレコードを作ったりしたいですね。究極のレーベル。夢のまた夢ですが。まずはその前に料理を作らなくては!(笑)。

S それではそのお料理について聞かせてください。店名の「LIKE」、これはお料理と何か関係があるんですか?

H 「ビストロ ロジウラ」とも「PATH」とも違う店ということで、今回は多国籍料理を考えているんです。それで“Like a Chinese”“Like a Thai”“Like a Japanese”、つまり「〜のような」の意味ですね。「LIKE」という言葉は親しみあるし、ポジティブな雰囲気があるし、覚えやすいし(笑)。

S 多国籍料理というのがなかなかイメージがわきません。オープン前の試食会を楽しみにしているんですが、その前にちょっとだけ内容を教えてください。

H 僕はフレンチで修業したので基本的にはフレンチしか作れないと思っているんですが、最近フレンチの枠が広がってきていて、自分でレンズ豆を発酵させて味噌を作ったり、魚醤も手作りしたりしている。制限を取り払ったときに、料理人としてどんなことができるだろうというのは、自分でも興味がありました。で、個人的にエスニックとか中華料理がとても好きで、こういうのを自分で作るとしたら…と思ったら次々アイデアが浮かんできたんです。思えば、初めて自分で作った料理もグリーンカレーでした。家族でタイ旅行に行ったときに食べた味が忘れられず、帰国後に親に教えてもらいながら作った。そういえば子供のころ、母親が作る料理でいちばん好きなのは何かと聞かれると、麻婆豆腐と答えていた気がする。そういった幼少期の経験が、今につながったのかもしれません。

店名の「LIKE」はシンプルなフォントで表現されている。原太一シェフ流の、エスニックのような、中華のような、日本料理のようなオリジナル料理に期待したい。

S 具体的にはどんなメニューを出す予定ですか?

H 今試作しているのは、担々麺と、台湾系の汁なし麺。それから水餃子。あと、これもずっと温めていたアイデアなのですが、カクテルを出そうと思っています。多国籍料理ってカクテルがあいそうだと思いませんか?

S またサプライズなアイデアが!(笑)

H バーテンダーの友人と話していると、料理人と同じようなことを考えているんですよ。これとこれを組み合わせるとどうなるとか、これで香りづけをするとこうなるとか。プロのバーテンダーには笑われるかもしれませんが、じゃあ料理人の自分が本気でカクテルと向き合ったらどういうものができるんだろうと思った。とはいえ、バーテンダーの経験もないし、今から修業するわけにもいかないし。中途半端な状態でやるわけにはいかないので、大好きなバーのバーテンダーの方にオリジナルカクテルを4〜5種考えてもらい、バーテンダーの基礎知識についてスタッフにトレーニングしてもらう予定です。僕はいつも、職人のように本質がわかっていて信頼できる人と仕事をしたいと強く思っているので、今回もプロのバーテンダーさんの力を借りるつもりです。同じく、コーヒーも本物を求めてフグレンさんにお願いしています。

S ランチもありますよね?営業時間は?

H はい。15日のディナーからスタートするので、ランチは16日から始めます。11時半開店で23時閉店。通しでやります。ティータイムというのも初めての経験なので、どんな表現ができるか楽しみ。しかしどうなることやら、僕自身やってみないとわからないですが、時間をかけていい店にしていきたいですね。

S 僕たちも手伝うので総力戦でいきましょう。ビストロ ロジウラからの原くんファンはもちろん期待しているはずだし、うちのお客様にもよく「上はいつオープンするんですか?」と聞かれているので、みんなで楽しみにしています。ぜひBIOTOPに新風を吹き込んでください。

BIOTOP3階でレストランを始めるにあたって、まず注文した巨大なクリスタルガラスの照明。チェコの「BOMMA」というブランドのもの。「いつか自宅に一番小さいサイズの照明を買おうと思っていたのに、まさか一番大きいサイズを注文することになるとは思いませんでした」(笑)

Photo / Yosuke Ejima Composition / Ayumi Machida

TAICHI HARA

1981年東京生まれ。大学卒業後、都内のフレンチレストランで修業後、2011年渋谷に「ビストロ ロジウラ」をオープンし、3年連続でビブグルマンにノミネート。2015年、代々木八幡にパティシェの後藤裕一さんと共同で「PATH」をオープン。料理だけではなく、インテリアや音楽を含めたレストランのスタイルを次々提案している。

Interview with

迫村 岳
(BIOTOP ディレクター)

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