カリフォルニアでTシャツを作ることを思いついたLA旅行は、ラフ・シモンズとコラボしたことでも有名なアーティスト、スターリング・ルビーのアトリエを訪ねるのが目的だった。「自分の発想にはないことを考える人に会いに行くとか、やはり目的のある旅がいいですね」。最近ではウィスキー山崎の蒸留所を訪ねたという。「やはりものが生まれるところって、何か理由があるなと思いました。次は森の中にあるという白州の蒸留所にも行ってみたい」
迫村 ずっと坂田さんとご飯に行きたくて、でもなかなか自分からは言い出せなかったので、去年、人を介してようやく実現してとてもうれしかったです。
迫村 僕は、坂田さんが以前青山のフロムファーストに出していたアーカイブ&スタイルという古着屋さんが大好きだったんです。雑誌か何かのインタビューで読んだのですが、なぜあえてラグジュアリーブランドが旗艦店を出すようなエリアに古着屋を出したのか?と聞かれて「あのエリアに来る人なら、それが数十万円もする新品であろうが、古着のTシャツであろうが、同じ価値を見出すと思うから」とこたえていて、とても共感したのを覚えています。僕自身、BIOTOPをただ高いものを置くだけの店にはしたくなくて、たとえばレディスでいえば、ザロウのようなハイエンドなブランドに古着のTシャツをあわせるとか、全身をブランドで固めるよりラフなものとミックスしてほしいなと思っているんです。それで坂田さんと何か一緒にできないかとずっと考えていました。なんとなく、古着屋のポップアップとかをイメージしていたのですが、坂田さんが「何か一緒に作ろう」と言ってくださった。それでできたのが、今回の白いTシャツです。
「この間連れていっていただいた渋谷のバー、あれ以来愛用させていただいています」
坂田 僕がやっていたアーカイブ&スタイルも、デッドストックのTシャツを定番で扱いつつ、イタリアのニットとか、イギリスのテーラードジャケットとか価格や国に関係なく気に入ったものを集めていたので、迫村くんが考えるセレクトショップと考え方は近かった。ラグジュアリーにラグジュアリーを合わせるとちょっと嫌みになるときがあるから、もっと抜け感を作りたいというか、いい意味でチープシックな店というか。だから迫村くんから、何かシンプルなものを作るとしたらどういうのができますか?と聞かれ、それはものすごく高度なリクエストだなあと(笑)。ちょっといったん考えるわって、そのときは持ち帰ったんだけど。
坂田 そう、ほとんど寝ないままLAに旅立って(笑)、そこでふと、LAでTシャツ作ったら、迫村くんのコンセプトに合うものができるんじゃないかとひらめいた。すぐに向こうの知り合いに相談して、カリフォルニアでTシャツを作ろうと決めたんです。
胸ポケットの内側にミリタリーのタグが付いており、ネックの後ろには、アーカイブ&スタイルのロゴがプリントされている。サイズはS、M、Lの3サイズ。¥6,000(税別)。
坂田 シンプルなものって作るのが難しいんですよ。サイズ感、生地、ステッチ、バランス、それぞれに何かこだわって作らないと、最高のシンプルは成立しない。それで参考にしたのはミリタリーのTシャツ。軍から支給されるものなので、何年にどこで作られてサイズはいくつとタグにプリントされているんですが、デッドストックを世の中に出すときはその情報をマジックで消すんです。その無造作な感じがなんだかかっこいい。タグはテキサスでしか作れないので、わざわざテキサスの会社にオーダーしました。そうやってひとつひとつこだわって作らないと、BIOTOPに置くのにふさわしい商品にはならないと思ったので。結果、かなり満足のいくものになりました。
坂田 モックネック風にしてあって、ちょっと詰まっていたほうがかわいいし、よれてきたときもいい感じかなと。ミリタリーのタグを胸ポケットの内側につけたのは、しゃれというか、まあデザイナーとしてのこだわりです。白いTシャツなんて世の中にたくさんあるから、値段がどうとかではなく、存在価値のあるものにしたかった。たとえば、アメリカのTシャツって、二本針のステッチなんですけれど、あえて90年代のすくい抜いのシングルステッチにしてみたり。そういう細かいところにこだわって、まったくインスタ映えしないTシャツになりました(笑)。いいでしょう?そんなにフォロワー増やさなくても(笑)。
坂田 パッケージは、アナログレコード店が使うようなクラフトペーパーで、僕が行ったことがある州の名前や素材の記号を印刷しました。
坂田 スタイルカウンシルに憧れていて、ポール・ウェラーのステンカラーコートスタイルがかっこいいなと思い、まねして買ったんだけど全然似合わなかった、というところから始まります(笑)。何で似合わないんだろう、と思ってサイズや作りを研究するところから古着に入っていきましたね。
坂田 20歳のときに初めてヨーロッパ旅行をして、ロンドンのケンジントン・マーケットに行ったんです。床屋やカフェと並んで古着屋があって、そこで当時はやっていた紺ブレを買ったんですが、イギリス軍のブレザーのボタンの話などちょっとしたうんちくを、店のパンクヘアのお兄さんが細かく教えてくれた。古着好きというより、単純にファッション好きという感じの人が教えてくれたのがなんだかうれしかったですね。その店は90年代初頭にはなくなったけれど、のちに川久保玲さんがインタビューで、ドーバーストリートマーケットを作るとき、80年代のケンジントン・マーケットのファッションカオスを参考にしたと言っていました。いい時代のケンジントン・マーケットで実際に見て覚えたことを、僕もひとつひとつ形にして伝えられたらいいなと思っています。
服を作るとき、日本ならこう、イタリアならこう、とそこでしか作れない味わいがあるそう。「今回のリクエストにふさわしいのはカリフォルニアと感じたので、20年ぶりくらいにカリフォルニアでもの作りをしました」
迫村 ファッションのキャリアはいつスタートしたんですか?
迫村 今でも古着は買いますか?
迫村 買い物の仕方って最近変わりましたか?
迫村 そうですね。もはや選べる時代ですよね。そういう意味では今、僕は星付きレストランより酒場に興味あるし、シルケット加工したTシャツより、坂田さんが作ってくださった、シンプルなTシャツが気分なんです。自然とローファイなほうに興味がいっている。
迫村 ありがとうございます。本当に今の気分が凝縮されたTシャツなので、お客さまにもぜひ感じてほしいです。これが売れてリピートして、その間に次の新作が出て、2年くらいたったらいつしか店にカットソーが積まれるコーナーができていた。そんな空間ができたらいいなと思っています。末長くよろしくお願いします。
パッケージも坂田さんが考案。アーカイブ&スタイルのロゴの下にあるW、P、C、P/Cは、ウール、ポリエステル、コットンといった素材表記で、その下はアリゾナ、カリフォルニア、コロラド、ハワイなど、坂田さんが行ったことのあるアメリカの州名。「行った州で何か作れたら面白いなと思って」
1970年、和歌山生まれ。2004年にデザインスタジオ「アーカイブ&デザイン」を設立。2006〜2012年、青山フロムファーストで同名のヴィンテージショップのオーナーも務める。数々の人気ブランドのディレクションを手がけるとともに、オリジナルの生地開発からプロダクトデザイン、空間ディレクションまで、幅広い分野で活躍中。
迫村 岳
(BIOTOP ディレクター)
BIOTOP PEOPLE
NO.42
TAKESHI MORI
BIOTOP PEOPLE
NO.41
TAKAYUKI FUJII
BIOTOP PEOPLE
NO.40
SHOTA TAMADA