No.34 CHRISTOPHE LEMAIRE, SARAH-LINH TRAN
クリストフ・ルメールとサラ=リン・トランに直接話を聞けるのを心待ちにしていた曽根。このインタビューの場は、今年の3月にLEMAIREの2019年秋冬パリコレクションが発表されたマレ地区の美術学校内とあって、いっそう胸が高鳴る。「LEMAIREの秋冬コレクションのショーで作品の数々が屋上の夕日に照らされたのを目にした瞬間、静けさの中にも凛とした雰囲気が伝わって来たんです。絶妙のカラーバランスはもちろん、特に木目調のプリントを施したワンピースはマーブルの柄と服のシルエットが最高!あの時の感動、今も蘇ってきます!!!」
曽根 (以下、S):クリストフさんとサラ=リンさんにお会いできて嬉しいです!お忙しい中、このような機会を作ってくださって大変感謝しています。このたびは2019年秋冬よりBIOTOPでお取り扱いさせて頂くことになりまして、ありがとうございます。9月に大阪と白金にてポップアップできるのが本当に楽しみです!!
S:日本には何度かいらっしゃっているとのことですが、日本のイメージはいかがですか?
クリストフ(以下、C): 日本には独特のスタイルがありますね。日本といえば、ファッションの最先端。そして日本の首都 東京は、モードのキャピタルです。まだ若い時にCHRISTOPHE LEMAIREのブランドを立ち上げた頃からずっと、僕にとっては日本のファッション業界とは強い結びつきがあります。そしてサラ=リンと一緒にデザインするようになってから、LEMAIREのブランドはより若々しくなりました。日本市場の影響もあって、LEMAIREのスタイルはよりいっそう確立されたのです。だから、“新生LEMAIRE”を喜んで頂けて嬉しいです。
サラ=リン(以下、S-L): そうですね。そして日本の新しい世代の人々からは、いい刺激を受けますね。私たちが前回日本に行ったのは、5月の上旬でした。
C:僕は今までに、たびたび日本を訪れています。正確に数えたことはないけれど、これまで20年間で、ほぼ40回くらいでしょうか?
S-L:私は、4回くらいですね。
S:BIOTOPにいらしたことはありますか?
C:この春日本に行った時は忙しすぎて、あいにくBIOTOPを訪れる時間はなかったけれど、ブティックに様々なブランドのアイテムがインスタレーションされている空間のイメージを目にしたことがあります。とても素敵なお店ですね!BIOTOPとコラボレーションできることを、とても嬉しく思っています。
S-L:私もです!
S:日本で必ず行くところや、お気に入りの場所はありますか?クリストフさんとサラ=リンさんが行く所がとっても気になります。
S-L : 日本の出張中は、忙しくてあまり出かけたりはできないけれど……。
C:うん、そうだよね。でも時間ができるとよく行くブティックはTOROとOut of Museum。中でも、僕はOut of Museumが好きですね。友人が様々なオブジェをカスタマイズして販売しているんですが、個性的で、訪れるたびに色々な発見があって思わずわくわくしますよ。
S:ヴィンテージショップによく行かれるんですか?
C&S-L:はい。オブジェだけではなく、服も買いますよ。
S-L : 日本のヴィンテージショップは感性が研ぎ澄まされていて、それぞれのお店によって異なるセレクションを打ち出しているところがいいですね。
S:ご自身でも古着を着たりするのですか?
S-L :もちろんです。みなさんと同じように、私も着ますよ。
S:ヴィンテージを着ている姿を見てみたいです!
S-L :そうですか(笑)?
C:ちなみに、神保町にはよく行きますね。写真集などの古本を探していると、時が経つのをつい忘れてずっと過ごしてしまいます。
S-L :フランスはもちろん、ヨーロッパではなかなか見つからない日本の古いファッション誌などもあるので、参考になりますね。
S:パリでのおすすめのレストランを教えてください。
C: オーベルカンフ界隈にあるワインビストロ、MARGO。素材を生かしたシンプルな料理が、ワインとよくマッチしています。
S:おふたりの好きな場所に、私も行ってみます!
CHRISTOPHE LEMAIREからLEMAIREへ……。1990年に自身のフルネームを冠したCHRISTOPHER LEMAIRE を立ち上げて以来、約30年に渡りファッション業界で数々のクリエイションを打ち出してきたデザイナー、クリストフ・ルメール。彼にとってのファッション業界のキャリアの中では、誰もが知る大御所ブランドやラグジュアリーメゾンのクリエイティブディレクターを務めていた時期もある。そんなクリストフ・ルメールが、あえて自らのブランド名をLEMAIREに変えて邁進し続ける理由とは—— 。
S:さて、2019年秋冬よりお取り扱いさせて頂くにあたって、LEMAIREのブランドヒストリーを教えていただけますか? ブランドとして大事にしているポイントは何でしょうか?
S-L:LEMAIREのフィロソフィーは、とってもシンプル。メンズもレディースも、まずは素材選びから始まります。大切なのは、ヨーロッパや日本で作られたノーブルで純粋な布地を選ぶこと。イギリスのトラディショナルな生地や日本の伝統素材を用いて、着る人のパーソナリティーを壊さないように、ちょっぴり控えめにしながらも個性を内包できるようにバランスを保つことが重要なんです。フォルムのシンプルさと生地のクオリティー、色合いの優しさにポイントを置いています。
C:大切なのは“カリテ・ド・ヴィ”。“ライフスタイルのクオリティー”なんです。
S-L:そう。“日常生活のクオリティー”ね。
C:洋服というのは、リアルで必要不可欠なもの。だからこそ、着心地のよいカッティングと普遍的なデザインを常に念頭に置いてデザインしています。そして服がチャーミングに見えるように、夢とポエジーを仕上げにちょっぴりプラスして……。僕たちはいつも、このようにトライし続けているんです。男性にとっても女性にとっても、毎朝起きて仕事に行ったりと日常生活を慌ただしく過ごしていく中で、着る服に快適さとやすらぎを見出せることがとても大切なのではないでしょうか?
S:今のお話にも繋がると思うのですが、LEMAIREの放つ世界観や空気感が好きな人が、日本には多いんですよ。その世界観や空気感は、いったいどこから生まれるのでしょうか?
C:その理由を僕たち自身が語るのは難しいけれど、そう言っていただけると嬉しい限りですね。なぜなら、モードはこのところとてもスペクタキュラー(壮観)になってきていて、ソーシャルメディアなどを通じてイメージにアクセスしやすくなっていますが、LEMAIREはそこからあえて距離を置くようにしてブランドイメージを守り続けています。僕たちは、控えめで微妙な静けさを大切にしているんです。BIOTOPのようなパートナーのお陰でLEMAIREは日本のファンたちの心を掴むことができたのでしょう。恐らく、LEMAIREは独特なフォルムを守り続けていて、ファッションの世界においても、より控えめにと常に心掛けているからなのかもしれませんね。
S-L: 日本のワードローブも、控えめなニュアンスを大切にしていますよね。服の中の“静寂”というか……。それは、私たちにインスピレーションを与えてくれます。
C:日本の伝統美は素晴らしいですね。その美しさからもLEMAIREは影響を受けているのかもしれません。日本の文化では、包み隠すことが美しいとされていますよね?“無言にして語る”というか—— 。全てを見せるのではなく、少し隠すことがせんセンシュアリティー(官能)に繋がると思うし、僕たちはそんな上品さが好きなんです。おそらく日本の人々は、そのような日本ならではの文化を通じてLEMAIREのフィロソフィーを理解してくれるのでしょう。
S:2016年にCHRISTOPHE LEMAIREからLEMAIREになったきっかけは?
C:サラ=リンと共にデザインし続けて、もう10年近くになります。LEMAIRE のコレクションは、サラ=リンとふたりで共に打ち出すもの。だから、ブランド名を僕のフルネームから、メゾンの名としてLEMAIREにしたのです。ロゴも、僕らが掲げるデザインポリシーを体現するようにシンプルなものにしました。
S:洋服はもちろんですが、バッグやシューズにも注目しています。バッグには、いつもユニークな名前がつけられていますよね?今シーズンも買い付けしたクロワッサンバッグや、エッグバッグ、カメラバッグなどネーミングが面白い!どうやって決めているのですか?
S-L:たとえば、今私が手にしているこのバッグはクロワッサンに似ていますよね?イエローもあって、まるでバターたっぷりのクロワッサンみたいなんですよ!LEMAIREのバッグやシューズは、どれもグルマン。このバッグはクロワッサンですし、エッグバッグは丸くてボリュームがあって、どれも楽しいフォルムなんです。
C:うん、確かにグルマンだよね(笑)。
S-L:そう。食材に似ていたり、あるいは体の一部のようにセンシュアルだったり……。面白いことに、いつもそんな感じですね。
S:名前を先に考えるのですか?それとも、まずはこういうものを作ろうと考えてから、最後に名前を決めるのですか?
C & S-L:まずはデザインしてから、最後に名前を付けます。
S-L:出来上がったアクセサリーの名前を決める時はいつも言葉遊びを楽しんでいるんですよ。名前をつけることのよって、時にはそのネーミングがフォルムの特徴を印象付けてくれるんです。
C:そう、名前が体現してくれるよね。
S-L:それはまるで、心理テストのよう—— 。ある絵がどんな形に見えるかという心理テストがありますね?それのように、“クロワッサン”が他の形に見える人もいれば、“エッグ(卵)”が“亀”に見える人もいたりする。美しいマーブル模様のペーパーを眺めているうちに、そこからたくさんのイマジネーションが沸いてくることも。たとえば海を連想したり、牡蠣を思い浮かべたり、水面に油が浮いているようにも見えたり……。デザインスタジオでは、そんなことをふたりで色々と想像して楽しんでいるですよ。そして、色の名前を決める時にも、とても気を配っています。
S:そうなんですか!?それでは、これからカラーのネーミングにも注目していきますね!
「自然体のサラ=リンさんに憧れている」と語る曽根。「サラ=リンさんの雰囲気に少しでも近づけるように、ソバージュヘアを目指して髪を伸ばしているんですよ!」
S:個人的に、サラ=リンさんご自身のスタイルや雰囲気がすごく好きなんです。大人の女性の中にある、ピュアな少女性を感じますよね。サラ=リンさんのスタイルで大事にしていることや好きなこと、影響うけていることなどを、ぜひ教えてください。
S-L: あら、それは嬉しい!とはいえ、いざそれを語るとなると、なかなか難しいですね。強いて言えば、自分自身の“シークレットガーデン”を育てることが大切なのではないかしら?スタイルというのは日々進化していくし、一生掛けて探し続けていくものなので、言葉にするのって難しい。でも美しさだけでなく、その人に備わっている知的要素が鍵を握るので、男女を問わず尊敬する人から影響を受けることはあるかもしれないけれど、決して見掛けだけに影響されるのではなく、その人たちが語ることや生き方からむしろ刺激を受けますね。やはり、“自分らしさ”がいちばん大切だと思います。
C:全く、彼女の言う通り。サラ=リンと僕とって興味があるのは、“モード”よりもむしろ“スタイル”。サラ=リンに“スタイル”があるのは、まずは彼女のパーソナリティー(個性)があるからだと思います。人々が敬愛するアイコンにはスタイルがあり、その人の着ている服は、まるでその人自身の“ユニフォーム”のように人々は感じるのではないでしょうか?スタイルを持つということは、まずは自分自身を知ることから始まるもの。もちろん、見掛けや姿を参考にするのも良いですけれど、服を通してどのように自分自身を伝えたいかということを知るのが重要です。
S:LEMAIREのレディースはサラ=リンさんが主に手掛けているそうですが、サラ=リンさんのスタイルと、おふたりのブランドポリシーがこうしてLEMAIREのデザインに反映されているのですね!
S:最後に、今後のLEMAIREはどのようなヴィジョンをお持ちですか?
C:CHRISTOPHE LEMAIREが成長してLEMAIREとなり、ブランドがしっかりと根付いてきたのはとても嬉しいこと・これまでに培ってきたフィロソフィーを大切に守りつつ、今後も改善させながら、サラ=リンと共によりいっそう昇華させていきたいと思っています。
S:長い時間、どうもありがとうございました。次回来日する時には、ぜひBIOTOPにいらしてくださいね!
C&S-L:はい、もちろんです。今からとても楽しみにしています。
CHRISTOPHE LEMAIRE、SARAH-LINH TRAN (LEMAIRE)
Interview with
曽根英理菜(BIOTOP レディスバイヤー)
Photographer NILS EDSTROM
Composition MASAE HARA
Brand Profile
日常生活の中でいつも自分らしくいられる心地よい服を提案し続ける、クリストフ・ルメールとサラ=リン・トランによるLEMAIREのコレクション。クオリティーの高い素材を厳選し、繊細なカッティングで着心地の良さとシルエットの美しさを追求し続けるLEMAIREのファッションアプローチは、伝統を継承しつつも常に新しい作品を世界へ発信するモードの首都 パリの洗練されたスタイルを見事に体現している。世界中の人々を魅了するアイテムの数々は、マレ地区に佇む 28, rue de Poitou のLEMAIRE本店近くのアトリエから毎シーズン生み出されている。