No.8 Juan Diego Gerscovich
話題のブランド、「インダストリー・オブ・オール・ネイションズ」。
そのクリエイティブディレクターでもあるフアンが初来日。
ナチュラルで上質な製品が生まれる背景を聞かせてくれた。
アルゼンチンにあるブエノスアイレス大学建築科を卒業。ファッションデザイナーの両親の影響で子供の頃から美的センスを身につけ、兄弟3人でブランドを立ち上げた。
迫村(以下S) NYの展示会ではいつも慌ただしくてあいさつするくらいだったから、今日はようやくゆっくり話せるね。
Juan(以下J) BIOTOPで会えてうれしいよ。ここに来たことのあるNYの仕事仲間から、どれだけこのショップとスタッフが素晴らしいかをずっと聞かされていたから。君たちはかなり初期からINDUSTRY OF ALL NATIONS(以下IOAN)を扱ってくれたよね。
S BIOTOPが出来た2010年に、初めてコレクションを見たと思う。いつからブランドを始めたの?
J 2010年だから一緒だね。その年の終わりごろにはもうBIOTOPに置いてくれた。そのときはまだエスパドリーユとデニムくらいしかアイテムがなかったけど。
S 天然染めのデニムは、いまもIOANらしいアイテムだね。IOANは3人のチームだけど、どういった経緯で始めたの?
J 僕たちは兄弟なんだ。フェルナンドと僕はもともと建築家で、パトリシオは金融関係。両親はファッション関係の会社を経営していた。僕たちはブランドとかブランディングとかに興味があったし、いつか起業したいと思っていた。僕たちが考えること、感じること、好きなことが伝わって、人々が共感してくれて、さらに人々に手を差しのべることができる、そんな会社を。
S それでブランドを立ち上げたんだね。
J そう、とにかく美学のある商品を作りたかった。僕たちにとって美学はとても重要だ。でもそれ以上に大切にしているのは製品を作るプロセスだ。その素材が生まれた場所で生産するということにこだわっているんだ。アルパカのセーターならボリビアで生産する、というように。
すべて手染めなので、1着ずつ色合いが微妙に異なるのが魅力。デニム各¥25,000
S コットンはインドで生産しているね。
J インドは世界で初めて染料を作って、何千年もそうやって布を染め続けてきた。それが19世紀になって化学染料が発明されると、手軽だし値段も安いからあっというまに広まって、そのせいで多くの天然染めの工場が廃業に追い込まれたんだ。化学染料は環境を汚染するのにね。だから「クリーン・クローズ・プロジェクト」を立ち上げた。IOANのコットン製品は、デニム、Tシャツ、スウェット…すべてインドで作っているよ。
S 商品を世界に発信することは、インドの技術を広めることにもつながるのでは?
J まさしくそれが「クリーン・クローズ・プロジェクト」で、100%インド産のオーガニックコットンと、100%天然染料、水、生分解性の石けんまたは酢を使って衣類を生産するというサスティナブルな方法にこだわっている。これは同時にインドの文化を守り、現地の人々に仕事を供給することにもつながると考えているんだ。
S 人々に共感される会社、というのはそういう意味なんだね。いろいろな国の知識や情報はどこから仕入れるの?
J 興味を持ったらすぐさま現地へ赴き、そこで小さな生産者を探す。そしてヴィジョンを語り、チームを組み、サンプルを作るんだ。彼らはせっかく技術があっても、地元で仕事がなければ街へ出て別の仕事をしなくてはならない。でも僕たちとチームを組めば、故郷にいながら、代々受け継がれてきた技術を使って、環境に優しいデニムやTシャツが作れるんだ。ね、いいアイデアでしょう? ケニアでは同じように現地の製造業者たちと一緒に靴を生産しているし、インドネシアではバティックや家具を作っているんだ。
S なるほど、それで「INDUSTRY OF ALL NATIONS」なのか! 最初から環境を守るとか、現地の人々に仕事の機会を作るとかの明確なコンセプトがあったの?
J うん、最初から考えていたね。世界中であらゆる物が作られていて、あらゆる職人が伝統的な方法でそれを生産している。大事なのは、その土地の人と仕事と環境をリスペクトすることだ。世界を傷つけない、それが僕たちのフィロソフィーなんだ。
S 素晴らしい考え方だね。どうやって考え方が育まれたんだろう。君たち3兄弟がどんなふうに育ったのか知りたい。
J 僕たちはアルゼンチンのブエノスアイレスで育った。両親はいまもブエノスアイレスに住んでいるので、家に帰れば子供時代を過ごした自分の部屋で寝ることができる。両親はとてもリベラルだったから、僕たちはいつだって自由だったし、自分自身を信じてリスペクトすることを教えてくれた。よく旅にも連れていってくれたしね。そうそう、子供の頃、僕たちが好きだった遊びがあるよ。バケーションで海へ行くと、代わる代わる砂浜にブランドロゴを描いて、それがどこのものか当てっこするんだ。ベネトンやプラダやBMWや、さまざまなブランドロゴを描いたよ。(笑)僕たちが子供の頃から考えてきたこと、感じたこと、そう僕たちのすべてはIOANのロゴであるブルーヘキサゴンの中にあるんだ。
どのアイテムにも素材と職人へのリスペクトがあふれる。デニム¥25,000〜、スニーカー各¥8,500、Tシャツ各¥7,000〜14,000
S いまはLAに住んでいるんだよね。どんな毎日なの?
J ハリウッドヒルに住んでいて忙しく働いているよ。休みの日は7歳の息子とビーチへ行ったりハイキングしたり。
S アルゼンチン育ちならサッカーが上手なんじゃない?ワールドカップはどこを応援するの?
J サッカーは大好きで、息子ともよく遊んでるよ。ワールドカップはもちろんアルゼンチンを応援する。弟のパトリシオはブラジルまで試合を観に行くんだよ。ラッキーなやつだ!
S ワールドカップを観ていたら、いろいろな国が気になりそうだね。いま気になっている国はどこ?
J 少し前に、ウルグアイでブランケットを作ろうしていたんだけど、サンプルが上がったところでその工場が倒産してしまった。ちょっと値ははるけれどいいものを作る工場が、安くて粗悪な品を作る工場に仕事を奪われていくんだ。僕たちは今後そういった現状とも戦っていかなければならないし、いつかきちんと投資もできるよう、もっと会社を育てたいと思っている。いま実際に進んでいるプロジェクトは、ニューヨーク北部の小さな製造業者と作っているジャケットと、フランスで作っているコート。どちらもいいものができそうだよ。
6/1まで、白金台BIOTOP1階にて開催中のポップアップショップ。涼しげな藍染めのブルーが目にすがすがしい。
S BIOTOPで開催中の、IOANポップアップショップの感想を聞かせて。
J 素晴らしいね。100点満点、完璧だよ。IOANは製造者、リテーラー、働く人々、そして君たちも含め、ブランドに関わる人全員でひとつのチームだと思っている。IOANの商品をみんな誇りに思ってくれているからね。
S そう、大量生産されたものとは違って1点1点色合いが異なったりする、そういう良さをお客様に伝えていきたい。IOANの世界観を紹介できる機会がもうけられて、本当にうれしいよ。
J アリガトウ(日本語で)。日本の人々の反応が気になってエキサイトしているよ。
今回が初来日、しかもこの日はまだ2日目。迫村がBIOTOPでコラボした益子の陶器を薦めると興味しんしん。陶器やインディゴなど日本のローカルの工場も見てまわりたいという。「TOYOTAやHONDAなどの車工場も見てみたい!」
INDUSTRY OF ALL NATIONS
Interview with
迫村 岳
(BIOTOP ディレクター)
2010年にスタートした、カリフォルニアを拠点とするブランド。その名の通り、世界各地の工場や職人と共に現地の素材を使って、クオリティの高いアイテムを作っている。6月1日まで白金台BIOTOPでポップアップショップを開催中。インドの伝統的製法で染められたTシャツやデニムなど、その技術と品質をぜひ手に取って確かめてほしい。