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BIOTOP PEOPLE

No.38 HIROKO MATSUBARA

HIROKO MATSUBARA
BIOTOP PEOPLE No.38 HIROKO MATSUBARA
『ё BIOTOP Lingerie』(ヨー ビオトープ ランジェリー)のファーストコレクションでイメージビジュアルを撮影して下さったフォトグラファー、松原博子さんが
初めての写真集『mono』を発売することになった。
アーティスティックに女性の体をとらえた写真集は写真だけでなく紙質やレイアウトにもこだわり抜いた一冊。写真集のことやファッションの話など、長年のファンでもある
レディスバイヤー曽根英理菜が松原さんにお話を伺った。

ファッション以外にも、家具やインテリアが大好きだという松原さん。最近、民芸の写真を撮りはじめたそう。

曽根 ついに写真集『mono』が発売になりますね! データで少し見せていただいていましたが、本になるとまた全然違います。紙の質感がとてもよくて、部分的に和紙を使っているのも新鮮。タイトルはどういう意味ですか?

松原 「mono」という言葉は、今回モデルを務めてくれたソフィアが見つけてきたギリシャ語の古語なんですが、英語に詳しい人にいろいろ聞いてみたけれどちょうどいい日本語がないみたい。強いていえば“孤高の人”みたいな、“何かを極めて高みを目指す人”みたいな意味らしいです。英語だと“unique”とか“original”が近いのかな? 自分で責任を持って何かをする人というような意味合いだと思います。

曽根 いつから撮影を始めたんですか?

松原 撮り始めたのは2〜3年前で、本の制作には1年半くらいかかりました。印刷は、富山にある山田写真製版所のプリンティングディレクター熊倉さんにお願いして、印刷立ち会いさせてもらいながらいろいろ相談して出来上がりました。紙質にもこだわり、また銀箔の質感は人肌をイメージしています。肌触りの良さを感じていただきたいですね。初めて本を作ってみて、決めなきゃいけないことが次々あってびっくり。なんか服を作るのもこんな感じなのかなと思った。服を作る人っていっぱい決断しているんだろうなあ。ようやく1冊できたけれど、あと3冊は出せるくらいたくさん撮っています。誰か続きを出させてくれないかな(笑)。

曽根 モデルさんは一人ですか?

松原 はい、ソフィア・ファネゴというモデルさん一人です。ほとんど顔が写っていないからわからないよね。半分はスタジオで、半分は家で撮影しています。ソフィアとは何かの撮影で出会って話しているうちに、彼女が彫刻を好きだというので話が盛り上がり、じゃあヌード撮らせてくれる? って聞いたら「いいよ」って。ソフィアの脱ぎっぷりがすばらしいです。自分の表現を知っている人ですね。

曽根 女性の体のいろいろなパーツに、どこのパーツかわからないくらいまで寄っている写真もありますよね。お尻なんて宇宙みたい。すごく造形的で美しくて好きです。

松原 パーツしだいではかなり強い印象になるけれど、どれもひたすらきれいだなーと思いながら撮っています。この写真集を作ろうと思ったきっかけは、3年くらい前にヌード撮影が物議をかもしたことがあったでしょう? なんとなくヌード写真はけしからんみたいな風潮になったときに、スタイリストの近田まりこさんが「女の目線で、アートとしてのヌードを撮ったら?」って提案してくださったんです。たしかに男の人が撮るヌードと女の人が撮るヌードは目線が少し違うから、「面白そう、やってみたい!」と思ったの。そんなときにソフィアに出会ったんです。だからどちらかというと女性に向けて作った本かな。

写真集『mono』は8月27日発売。アートディレクションは田沼広子さん、印刷は山田印刷所。BIOTOPの店舗でも販売。¥8,800(税込)

曽根 「ё BIOTOP Lingerie(ヨー ビオトープ ランジェリー)」のイメージビジュアルを考えるとき、最初から女性のフォトグラファーがいいなと思っていました。女性の曲線美とか美しいパーツというのは、女性にしかわからない魅力がけっこうあると思っているので。松原さんの写真に恐れ多くもシンパシーを感じて、絶対すてきな写真を撮ってくださると直感したんです。私、前職でプレスをやっていた7年前くらいから、いつかお仕事をご一緒させていただきたいとずっと憧れていたので、「ё BIOTOP Lingerie」のビジュアルは真っ先に松原さん!と思いました。

松原 ありがとうございます。

曽根 松原さんはなぜ写真家になろうと思ったんですか?

松原 なんでだっけ…?(笑)昔、アートディレクターのアシスタントをやっていたんですが、仕事があんまりできないだめなアシスタントで(笑)。どうしようかなー、PC作業も苦手だし、座っている仕事も嫌だし……、そうだカメラマンになろう!と思ってスタジオに入りました。そこで2年働いてからフォトグラファー戎康友さんのアシスタントを2年やって、30歳のときに独立しました。今でもまだまだ初心者だと思って写真撮っていますけどね。

曽根 ずっと第一線ですごいと思います。

松原 気づいたら長くなっちゃった(笑)。昔は女性カメラマンがそんなにいなかったけれど、今はたくさんいてうれしいです。男の人の写真ってけっこう強いから、そうじゃなくちゃいけないのかなとずっと思ってきたんだけど、最近は強くなくてもいいんだって感じています。

曽根 写真を撮るときって何を考えているんですか?

松原 ただただ「きれいー」って思って撮っているかなー(笑)。

曽根 それは人でも、物でも?

松原 そうね、なんでも「きれいー」と思いながら撮っているかも。すごく集中しているから、靴音が気になって裸足になっていることも。

曽根 大地からエネルギーをもらっているんですね(笑)。いつも思うんですけど、松原さんの写真はなんか質感があるというか、いい意味で生々しいというか、モデルの女性像が逆に想像できないというか。その不思議さが、すごく印象に残るんですよね。

松原 生っぽい?

曽根 はい。クラシックでありながらモダン、今の感覚を持ち合わせているところがすごいなあと思うんです。いったいどこから生まれてくるんでしょう?

松原 なんだろう……。たぶん女性の写真を撮るのが好きだから? 男の人を撮っているときより、女の人のくびれとか肩とかを撮っているほうが楽しいかも。

曽根 こういう切り取り方があるんだっていつもハッとさせられる。かゆいところに手が届くというか、隙間を狙っているところがツボに入るんです(笑)。最初の打ち合わせで、胸元が大きく開いたニットドレスの下にベアトップを合わせるスタイリングを見て、松原さんが「こういう格好で街に出たらかわいいよねー」って言ってくれたのがうれしかったな。

松原 いいなーと思ったの。日本人って人の目を気にしすぎるところがあるから、悲しくなることがあるじゃない? 外国人は体型とか気にせず肌を見せているのに。だからこういう格好の女の子がいたらすてきだなって。

「『ё BIOTOP Lingerie』の服は、肉体美がきれいに出てとらえやすいので撮影は楽しかったですね。女の人っていいじゃんという感じが、かわいすぎずいい感じに出ている」という松原さん。

曽根 日本はいい意味で保守的というか、隠す美学というのもあると思いますが、でももっと開放的になりたい!大胆に体を見せたい!というときが私はけっこうあります。それでたまに裸に近い格好で仕事に行ったりしますけど(笑)、冷ややかな視線を感じますね。

松原 それって嫌よねー。バストトップくらい多少透けていてもいいじゃん、と思うけど。みんなの視線がもっとやわらかくなったらいいよね。もしくは自分がいっさい人の目を気にしなくなるかどちらか(笑)。

曽根 今は仕事でいろいろな人に会うからだいぶおさえていますが、もし私が海外で開放的に暮らしていたら、びっくりするような格好を積極的にしているかも……(笑)。

松原 タイトルの『mono』って、そういう意味かもしれないな。“オリジナル”とか、“独創的”とか、“みんな好きにやっちゃって”みたいな(笑)。だってコロナ禍でみんな疲れていて自由になりたいと思っている人が多そうじゃないですか。

曽根 多いと思いますね。思い切り変な服着たいとか、そういう衝動が。ラグジュアリーブランドのコレクションを見ていても、開放的になりたい、自由になりたいというテーマが多いですね。そういえば打ち合わせのときに松原さんのスマホのカメラロールをのぞいたら、気になる写真がたくさん入っていて、ああ、この中にすてきなイメージがいろいろ詰まっているんだなと気になっているのですが。

松原 そんなことないですよ。インテリアとかアートとかが好きなので、気になったものを撮っているだけ。毎年、年初めには「1週間に1度は美術館か映画館に行こう」って決心するのに、すぐ挫折しちゃう。でも最近見たハーモニー・コリン監督の『ビーチ・バム』って映画よかったですよ。“ニューヒーロー”ってキャッチコピーに憧れて見たんですが、人生を楽しむためだけに生きている新しいヒーロー像。くだらないことばかりやっているんですが、人生そこからポエムが始まるんだよという話。なんかポジティブ過ぎていいなと。

「一緒にお仕事させていただく先輩の方々を見ていると、止まることなく前に進み続けなくちゃって思います」(曽根)「私はこうなりたいというのは特にないけれど、ずっと写真を撮っていられたらいいなって」(松原)

曽根 松原さんは基本的にポジティブですよね?

松原 え!?(笑)

曽根 すみません、よく知らないのに……。でも私が松原さんに感じるのは、ポジティブさ、ユーモア、もちろんセンス、そして少女性。

松原 えー!? 本当はもっとセクシーになりたい(笑)。

曽根 ファッションも、パリのマダムみたいな雰囲気がある。

松原 マダムだったらいいな、マダムになりたい!

曽根 撮影しているとき、「あ、これ撮りたい!」って声に出しますよね。そこにエネルギーをもらいました。「撮りたい!撮りたい!」って言いながら、感情のままに撮っている姿が、本当にかっこいい。そんなふうに仕事する人は少ないと思うので、なんだかうらやましいというか。

松原 「ヨー」の服がすごく良かったから撮影は面白かったです。人の肉体美がきれいに出るので、とらえやすかった。女の人っていいじゃん!という感じが、かわいすぎず、いい感じに出ていて。

曽根 BIOTOPの1階でアイテムと写真を展示したときに、壁に飾った松原さんの写真を撮る人が多かった。やはり撮りたいと思わせる力があるんじゃないでしょうか。しかもそのメインビジュアルで使ったボディスーツがすごく人気だったんですよ。

松原 うわー、みんなあれを着るんだ! すごーい!

曽根 じつは一番受け入れられないんじゃないかと思ってた(笑)。だってすけすけのボディスーツで1枚じゃ着られないから、どうやって着こなすか考えさせる服じゃないですか。でもあのランジェリー特有の素材を使ったボディスーツは、ひとつの提案としてどうしてもラインナップに加えたかったんです。それをみんなが着たいと思ってくれたのは、あの写真の影響があると思う。

松原 いいよねー。売れなくてもいいから作るっていう気持ちが(笑)。

曽根 表現したいことがこれだったので、もし共感してくれる人がいたらうれしいな、くらいに思っていました。予想より多くの方に共感していただけたのは、服だけでなく演出の力も大きいと思う。

松原 どうやって着ようかなと自分で考えてもらう、あなたにおまかせみたいな感じがいいんじゃない?

曽根 最初に編集やスタイリストの方々にお披露目したときに、「松原さんの写真とヨーの服が合っているね」ってすごく言われて、客観的な意見としてもそう感じてもらえたんだなとうれしかった。秋冬のコレクションも今作っているので、ビジュアルの撮影をまたお願いできればと思っています。

松原 ほんと!? 楽しみにしています。

「松原さんの世界観が大好きなので、頭の中をのぞいてみたい」というバイヤー曽根。「いろいろなヒントが保存されていそうな、松原さんのスマホのカメラロールをのぞきたい」

Photo/ Daehyun Im Composition/Ayumi Machida

松原博子
Hiroko Matsubara

フォトグラファー。京都生まれ。戎 康友氏に師事し、 2009 年に独立。雑誌、広告で活動中。

Interview with

曽根 英理菜
Erina Sone

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