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BIOTOP PEOPLE

No.23 MISAKO KUMAGAI

MISAKO KUMAGAI
BIOTOP PEOPLE No.23 MISAKO KUMAGAI neuloデザイナー
毛糸で編まれた優しい色合いのタペストリーが人気を呼んでいる。
デザイナーは熊谷美沙子さん。独学でタペストリー作りを習得し、
ヴィンテージの毛糸を使ってモダンでユニークな作品を作り続けている。
今回、白金台のBIOTOPでポップアップイベントを開催することになり、
いったいどんな作品が登場するか、またいったいどうやって作っているのか、
neuloファンのひとりでもあるBIOTOP PRの楠原がお話を聞かせてもらった。

楠原(以下K) いまからちょうど2年前になりますが、ディレクターの迫村から突然「こんどタペストリーを扱うから」と言われ、そのときは「え、タペストリー?へー、初めて見るけど面白いなー」という感じだったんです(笑)。ところが、白金台店のショーウィンドウと店内に10点くらい置かせていただいたところ、あっというまに完売してしまいました。

熊谷美沙子(以下M) まだブランド名もなかったのに、いきなりBIOTOPのショーウィンドウに飾ってくださって本当にびっくりしました。

K それで昨年末、こんどは大阪のBIOTOPでポップアップイベントをしたところ、タペストリー目当てのお客様がたくさんいらしてくださったんです。たった1年でものすごく認知度が上がっていて驚きました。私自身、自分の部屋に飾りたいと思っていて、いまタペストリーに興味津々なんです。どうやって作るんだろう、どんなきっかけで作り始めたんだろうって、いろいろ聞いてみたいとずっと思っていました。

M じつは4年前に転んで右手の親指を骨折してしまい、まったく動かなくなってしまったんです。リハビリしないと動かなくなるとお医者様に言われて、何か指を動かすことをしなくちゃと。それで子供の頃から好きだった編み物を再開したんです。ただ、ずっとやっていたことなのであまり新鮮味はなく、あくまでもリハビリという感覚でした。ところがあるとき、ふと家の壁にさりげなく掛かっていた巨大なニットのタペストリーに目が止まりました。これってどうやって出来ているんだろうと急に気になって。

K どこかへ習いにいらしたんですか?

M いえ、まったく独学なんです。タペストリーの作り方をインターネットで調べていたら、海外のアーティストが動画をアップしているのを見つけました。使っている道具とか手の動きとかを繰り返し研究しているうちに、自分でも試してみたくなって、海外から機械を取り寄せて見よう見まねで作ってみたのが始まりです。

制作期間は、小さいサイズのタペストリーでも約3日かかるそう。デザイン画は描かず、頭の中でイメージを作ってひたすら編んでいく。

K どのくらいで作れるようになったのですか?

M 最初はずいぶん試行錯誤して、何度も作ってはやり直していましたね。半年くらいして、ようやくそれらしきものが作れるようになり、友達のお誕生日プレゼントに贈ったりしていました。そうしたらすごくセンスのいい友人がとてもほめてくれて、「これ、売れるんじゃない?」って。そこで試しに小さい作品を5点ほど作って販売してみたところ、すぐに売れたんです。じゃあブランドとして本格的にやってみようかなと。

K ブランド名の「neulo」(ネウロ)、響きがかわいいですね。

M フィンランド語で「ニット」という意味です。北欧好きということもあるんですが、タペストリーに限らず、編み物全般を扱っていきたいという思いも込めて。

K タペストリーに使う毛糸や、タペストリーを吊るす流木はどうやって入手しているんですか?

M 毛糸は海外に行ったときにヴィンテージショップで見つけたりとか、海外の通販サイトで探したりとか。基本的にヴィンテージでニュアンスある色の毛糸を使いますね。流木は、夫のサーフィンの師匠で四国に住んでいる方が、砂浜で拾って送ってくださいます。

 

K 太さや素材感が違う毛糸を巧みにミックスしたり、左右非対称のデザインなのに吊るすとちゃんと水平になっていたり、すごく計算されている印象なんですが、作る前に設計図というか、デザイン画を考えるのがたいへんそうですね。

M それが……デザイン画はないんです(笑)。学生時代はずっと美術部で油絵を描いていたんですが、そのときも下描きせずにいきなり描きはじめていました。面倒くさがりということもあるんですが、いま頭に浮かんでいることをすぐに、一気に形にしたいんです。だからタペストリーもデザイン画なしに作っています。途中、何度か吊るしてバランスを見たりしつつ、とにかく手を動かして進めていきますね。

K すごい!じゃあ、どういう作品にするかは何をヒントにするんですか?

M オーダーであれば、ご自宅の家具や壁の色を聞いたり、もしくはその方をイメージしたり。こだわりのある方なら、部屋のここに掛けたいと写真を送ってきたり、もしくはこんな色を入れてほしいと具体的な注文があることもありますよ。引っ越しや、部屋の模様替えをきっかけにオーダーされる方も多いですね。

neuloを知ってから、人の家の壁が気になるようになったという楠原。「タペストリーがあるだけでインテリアのムードががらりと変わるので、ぜひうちにも飾りたい」

K タペストリー作りで、いちばん難しい点は何ですか?

M やはり裏側の処理でしょうか。裏もきれいに作るのはもちろんなのですが、長く使ってほしいので、丈夫で耐久性があるものを作りたいんです。だから最後に、裏の結び目をひとつひとつ慎重に結んでいると指がボロボロになります。

K なんだか気が遠くなりそうな作業ですね……。いままで作ったもので一番大きいものってどれくらい?

M 幅が3メートル40センチ、高さが2メートル80センチのタペストリーです。現在、青山のTHINGSという結婚式場に展示されているものなのですが、作っている途中で、想像以上に重くて流木では支えきれなくなり、大工さんに頼んで丸太を作ってもらって吊るしました。何十キロもあったのでトラックで東京のスタジオに運び入れ、そこで3日間徹夜して仕上げて納品しました。白とグレーの糸がしだいにミックスしていって、結婚するふたりがだんだんひとつに交わっていくようなイメージの作品です。お客様がその前で記念撮影をしていると聞いて、とてもうれしかったです。

K うわー、見てみたい!もはやアートの域ですね。タペストリーって空間を暖かく変える力がありますよね。今回、白金台で初めてneuloのポップアップショップを開催することになり、約20点作っていただきましたが、何かテーマはありますか?

M 葉山の自然の色をイメージしています。もともとアースカラーやナチュラルカラーが好きなのですが、葉山に住むようになってより身近に感じるようになりました。私の作品は葉山の生活から生まれているのだと思います。そもそも結婚するまでタペストリーという言葉も知らなかったんですよ(笑)。家の中には夫の趣味で、タペストリーを始め、写真や絵、照明がたくさん飾られていますが、そのほかにも国内外で見つけてきた何に使うのかわからない(笑)不思議な工芸品がたくさんぶら下がっていて、そのひとつひとつがとても刺激になっています。そのうち葉山の植物などを使って染料を作って、それで糸を染めてみたいですね。イメージにあう色の毛糸を探すのはなかなか難しいので、色も自分で作れたらいいなと思います。

K 葉山色のタペストリー、素敵ですね。確かにneuloのタペストリーは色が独特だと思います。 

M そうですね、北欧の家具とかアートが好きで、絵もムンクとか暗い色合いのものが好みです。油絵をやっていた頃は、主に人物とか動物とかを描いていたのですが、やはり色合いは暗かったです。ピンクとか明るい色は子供の頃から苦手で……人の色彩感覚って生まれつきなのかもしれませんね。

モフモフした糸のボリュームと長めのフリンジとのバランスが絶妙。タペストリー¥50,000

K タペストリー以外にも何か作る予定はあるのですか?

M こういうもの作ってみたら?とインテリアショップからご提案いただいたりもするので、来年はいろいろ試してみようかな。まだ始めたばかりなので、これからどういうものを作りたいか、来年はゆっくり考えてみたいと思っています。売れるかどうかではなく、本当に自分が好きなものを作ってみたいですね。

K neuloによって、いままでの価値観にない、新しい編み物の世界が広がりそうな気がしています。まずは私、自分の部屋にぴったりなタペストリーを作ってもらうことを来年の目標にします!(笑)

●neuloポップアップイベント
12.2(sat.)〜12.10(sun.)予定
BIOTOP白金台の1階にて、このイベントのために制作された大小さまざまなタペストリーを、約20点展示・販売します。
12.2(sat.)、12.3(sun.)の12~16時は、デザイナーの熊谷美沙子氏が来店。店頭にて作品のご紹介をいたします。

小さめのサイズは並べて飾ってもかわいい。タペストリー左¥24,000 右¥28,000

Photo/Ittoku Kawasaki Composition/Ayumi Machida

neulo

熊谷美沙子
くまがいみさこ●アパレル勤務を経て、2014年「neulo」(ネウロ)をスタート。ヴィンテージの羊毛糸を使ったハンドメイドのタペストリーが注目され、2015年にはBIOTOP白金台、2016年にはBIOTOP大阪のポップアップイベントで人気を博した。自然を感じさせる優しい色合いと立体感のある大胆なデザインが、インテリアのムードを一変させてくれると評判を呼んでいる。

Interview with

楠原 愛
(BIOTOP PR)

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