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BIOTOP PEOPLE

No.21 TORUWACHI

現在、BIOTOP3階「アーヴィングプレイス」で開催中の
「ラ フェット ドゥ マルディグラ」は、肉の聖地と呼ばれる
銀座のフレンチビストロ「マルディグラ」の和知徹シェフをゲストに迎えた
期間限定レストラン。このポップアップは一体どのように実現したのか。
和知シェフの料理に惚れ込んでコラボレートした
アーヴィングプレイスのプロデューサー山本宇一氏が、シェフに話を聞いた。

アーヴィングプレイスのキッチンで腕をふるう和知さん。肉のおいしさを極限まで引き出す神業。

山本(以下Y) 今回のDMを作っているときに感じたのですが、和知さんのお料理って撮影するのが難しいですよね。俯瞰で撮るとつまらない。アングルを工夫して、肉にぐっと寄ったりして、高さや質感まできちんと見せないと魅力が伝わらないんです。盛り付けや組み合わせの発想が自由なので、先入観にとらわれずに見ないといけない。和知さんは本当に自由な考えをお持ちで、それは料理にも反映されていると思いました。

和知(以下W) 中心にはもちろんフレンチがあるんですけれど、旅好きなので、各地で見つけたものが料理に生かされたりして、フレンチからちょっと離れることもあります。いろいろな要素がミックスされているのが僕のカラーかなとも思いますね。

Y かなりマニアックな料理だと思いますが、それをわかりやすくカジュアルダウンして食べさせてくれる。その自由な、おおらかな感じがいいと思うんです。塩加減とか火の通し方などが繊細であると同時に、食器の選び方とか盛り付け、お皿の構成などは自由。センスを感じますね。お洋服が好きというのもわかります。

和知徹さんと山本宇一さん。今回のコラボレーションについて、お互いの店を何度も行き来して意見を交換したという。

W きょうはワイルドライフテーラーとBIOTOPで買ったものを着ています(笑)。プリティシングスの隣のWIND AND SEA(熊谷隆志氏のパーソナルショップ)でも、器とか帽子を買いますよ。

Y 一時期、駒沢周辺でハットをかぶった人が急増して、なにかと思ったらWIND AND SEAで売っていたんです。そのしばらくあと、こんどは鹿の角を持っている人を何人も見かけたので聞いてみると、みんなWIND AND SEAで買ったという(笑)。1軒面白い店ができると、そのまわりの人たちのライフスタイルが変わることがありますが、和知さんのお店もそういう存在かなと思いますね。フレンチとかビストロというより、「おいしいお肉とワイン」という食のスタイルがマルディグラから始まった気がする。

W うちは銀座の中ではカジュアルなほうですが、東京は激しくカジュアル化が進んでいて、シンプルにおいしいものが求められているような気がします。アーヴィングプレイスで料理を提供することになったときも、それを意識しましたね。地階にあるマルディグラと違って、ここは光がたっぷり入る。だからランチは太陽の光があうメニューを考えました。そして夜は、このカジュアルな空間に似合うように、マルディグラのメニューをぎゅっと絞り込み、落とし込んでいます。

Y 何度かマルディグラで食事をさせていただきましたが、同じものを昼にアーヴィングプレイスで食べると、また違って見えるんですよね。なんだか料理がつやつや光っているんです(笑)。和知さんのお料理が自然光の中で食べられるというのは、なかなか得がたい経験で新鮮です。

W ここは抜け感あって気持ちいいですね。お肉がどーんとあって野菜がたっぷりというプレートは、じつはバランスもよくて太陽の下で食べるのにふさわしい。

Y BIOTOPはセレクトショップなわけですが、今回はついに和知さんをセレクトしちゃった(笑)。最初この話を聞いたとき、どう思いましたか?

W 僕は若い頃からファッションが好きで、特にJUNの服が大好きだったんです。VANよりJUN派です(笑)。だから佐々木社長は憧れの方だったんです。そして次々素敵なお店を作る宇一さんのことも、ずっと尊敬していた。だからそのお二人といっしょにお仕事できるなんて、とても光栄に思いました。BIOTOPには昔から服を買いにきていたから、アーヴィングプレイスももちろんよく知っていたので、なんだか気持ちが高まって、僕に何ができるだろうと想像するだけでワクワクしましたね。

Y とてもいいバイブレーションでしたよね。僕もずっと飲食の仕事をしていますが、ジャンルが違うし今まであまり交わることはなかった。今回いっしょに仕事をしてみてとても面白かったです。基本的には和知さんがやりたいことを思い切りやってもらうのが一番いいと思っていましたが、ただ、うちの店でうちのスタッフで、どこまで実現できるかという不安がありました。料理って人が作るものだから、レシピを再現するだけでは違うと思うので。

W ここへきたマルディグラのお客様たちからも高評価をいただいているので、大丈夫だと思いますよ。

US牛サガリ、ジャスミンライス、サルサ、豆と豚の煮込みがストウブに盛り付けられた「US牛サガリのイパネマステーキ」¥2,800(税別)

Y それはよかった!いろいろ相談しにマルディグラに行くと、そこで和知さんが肉を焼いているわけですが、その肉を焼く姿が美しい(笑)。なんというか、肉を愛でているんですよね。そのマインドとか、きめ細かいオペレーション、完璧なスピードとかにできるだけ近づきたいと、うちのスタッフ共々がんばりました。

W 僕もこの話をいただいた直後に、宇一さんのプリティシングスにコーヒーを飲みに行って、レコードを聴きながらいろいろ雑談をさせていただきましたよね。その時間が僕にとってはすごくよかった。これからいっしょに仕事を始めるうえで、気持ちを通い合わせるような、そんな貴重な時間でした。その時にした何でもない話のおかげで、漠然とイメージしていたものが形になり、料理はもちろん、どういう空気を作ればいいのかが自分の中で練りあげられていきました。

Y この話が始まってから、僕の店に何度もふらりと訪ねてきてくださいましたよね。アーヴィングプレイスやプリティシングスだけでなく、ロータスとかにも。

W やはり考え方はお店に反映されるし、そこに流れている空気は行ってみないとわからないと思うんです。お話していても伝わりますが、じっさいお店に行くとビビっと直感的に感じられるので。

Y お店の空気を感じたり、おいしいものに接したり。接客まで含めて飲食業ってすごく面白い仕事だと思うんですが、最近はブラックだの何だの揶揄されている。でも、忙しい=つまらない、ではないんですよね。こういう夢のある仕事に、もっと優秀な人がどんどん入ってきてほしいと思っています。そういう意味で和知さんは、大ベテランではあるけれど、ホープです。アイドルとも言えるかなー(笑)。そういう資質、マインドをお持ちだと思います。

W めざします(笑)。もったいないお言葉です。僕が料理の世界に入ったころは、店をいくつも持ちたいとか、なにか物質的なものを所有することがある種の成功でしたが、いまはもうライフスタイルが違う。いまの若い人には、飲食の仕事って楽しいんだということを、ストレートに伝えたほうがいいような気がしているんです。だから僕がマルディグラをやりながら、こういうポップアップレストランをやるっていうことも、「え?服じゃなくレストランのポップアップ?なんだか楽しそうだな」とストレートに感じてもらえるんじゃないかと。自分の店は1軒しかなくても、いろんなところに移動して楽しい催しをして、いろんな表現で世界観を見せていくこともできるんだよと。そういうことを続けていって、憧れられる存在になれたらいいなと思っています。

ナイフを入れると半熟卵が溶け出す「男のニューハンバーグ2」¥2,400(税別)

Y ところで、和知さんの料理とか世界観って、どうやって出来上がったんですかね?

W 最初にフランスに行きたいと思ったのは、布に興味があったからなんです。

Y え!料理の勉強じゃなかったんですか!?

W 料理も好きだったのでフランスで勉強したいと思いましたが、どちらかというとヨーロッパの布とか銀細工とかの美しい手工芸品を見たかったんです。ヨーロッパには日本には入っていない染料があるみたいで、ふだん日本では見ることのできない色が存在するんですね。それをこの目で確かめたいと思ったんです。

Y よく和知さんが肉とか塩とかの話をしてくださいますが、やはり素材自体の美しさが好きなんですね。だからただ届いた肉とか、買ってきたパック入りの肉を使うのとはまったく違う料理が生まれるのは当然なんですね。和知さんの生き方とか美意識がどこからきたのか知りたい(笑)。

W 子供のころ油絵を習っていたんです。すごく大きなキャンバスの前に立って「絵をよく見なさい」とよく言われていました。それはすごくいい経験でしたね。料理を作るときに、机の上で計算するように考える人もいるんですけど、僕は何も見ないでイマジネーションしますね。真っ白なキャンバスに絵を描くように、頭の中で料理を想像していきます。あと、子供の頃はバイオリンも習っていました。右手に画材、左手にバイオリンを持ってお稽古に通っていたんです(笑)。半ズボンで革靴はいて(笑)。バイオリンのレッスンも、じつは先生のところで出してくれるカルピス目当てだったんですが、楽譜を読むよりは先生の動きを見て必死で真似をしていた。どちらもあまりうまくはならなかったけれど、楽しかったし、そういうことが料理をするうえでの栄養になっている気がします。

Y なるほど、いろいろな要素が入って独特の世界が築き上げられているんですね。それに各地を旅して見つけた要素が加わっていく。お店の名前はどういう意味ですか?

W はい、音楽が好きなので「ニューオーリンズ」に関係した言葉を使いたかったんです。「マルディグラ」とはニューオーリンズの有名なカーニバルの名前です。あとで考えたら、あの街はアフリカ系の移民も多いし、スパイスを使った料理も有名で、僕がいま作っている料理と通じるところが多かった。だから人に説明しやすいですね。にぎやかなイメージを持ってもらえるのもうれしいです。

Y さて、今回のマルディグラのポップアップは、どんな楽しみ方がおすすめですか?

W 昼は太陽の光の中で気持ちよく、夜はしっとりとなごみながら、どちらも豊かな時間を過ごしていただきたいです。おいしい食べ物があると会話が弾みますし、そういうパワーのある料理が並んでいると思います。

Y そうですね。本当にパワフルなメニューが揃っているので、大勢でくるか、または何度も足を運ぶかして、できるだけたくさんのメニューをたべていただきたいと僕も思っています。

パテドカンパーニュ、リエット、岩中豚のハム、オリーブ、プルーン、イベリコ豚の生ハム、八丈島黄金のモッツァレラの盛り合わせ。「アンティパストアソート」¥2,700(税別)

Photo/Ittoku Kawasaki Composition/Ayumi Machida

和知徹(マルディグラ オーナーシェフ)

わちとおる●1967年兵庫県淡路島生まれ。高校卒業後、辻調理師専門学校に入学。翌年、半年間フランス校研修を受けた後、ブルゴーニュの1つ星レストラン「ランパール」で修行を積む。帰国後、「レストランひらまつ」に入社。在職中にパリの2つ星レストラン「ヴィヴァロア」で研修後、ひらまつ系列店である飯倉「アポリネール」料理長に就任。1998年に銀座「グレープガンボ」の料理長を3年務めた後、2001年独立。「マルディグラ」をオープンさせる。

●La Fête du Mardi Gras at irving place

4.22 (Sat.) ~ 7.23(Sun.)予定
東京都港区白金台4-6-44 BIOTOP3階
☎︎03-5449-7720
11:00〜23:00 不定休

Interview with

山本宇一
(空間プロデューサー)

「アーヴィングプレイス」を始め、駒沢の「プリティシングス」「バワリーキッチン」、表参道の「モントーク」「ロータス」など数々の名店を生み出した空間プロデューサー。

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