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BIOTOP PEOPLE

No.46 NAGISA TORII

NAGISA TORII
BIOTOP PEOPLE No.46 NAGISA TORII 「IIROT」Designer
「好きなものこそ、シンプルに纏う」をコンセプトに、 タイムレスでありながら今の気分を上手に落とし込んだ「IIROT」。 2018年にブランドを一人で立ち上げ、“まだ世の中になくて、 自分が着たい服”を作り続けるデザイナーの鳥居なぎささんにインタビュー。 着実にファンを増やし続ける、永遠のマストアイテムの魅力にアプローチする。

迫村 5年くらい前に会食する機会がありましたが、そのときはIIROTを立ち上げようと準備されているようなタイミングでしたよね。その後SNSを見ながらIIROTの服はBIOTOPに合うだろうなとずっと思いつつ、今季からついに満を持してお取り扱いさせていただくことになりました。

鳥居 久しぶりにお会いできてうれしいです。初めてお会いした時からここまで長かったです(笑)。

迫村 しかもいきなり別注アイテムのコートまでお願いしてしまいました(笑)。最初はそのつもりはなかったのですが、復刻したというコートを展示会で拝見して、ずっと気になっていたんです。他のショップでもIIROTのお取り扱いがあるなかで、BIOTOPでスタートしたことをどうやったらお客様にアピールできるかなと考えていたのですが、何か一つでも別注アイテムがあれば伝わりやすいし、あの上質なグレーの素材をぜひ使いたくてお願いすることにしました。とてもすてきな仕上がりになりました。IIROTはスタートしてからしばらくはショップに卸しをしていなかったんですよね?

鳥居 そもそも卸しを考えずに始めたブランドだったんです。でも1年目くらいから、ウェブでの展開を見た新潟のショップの方からご連絡をいただいて、こんなに熱心にIIROTを見てくださる方がいるということを知り、まずはそのショップのみで卸しをスタートしました。そのうち少しずつ問い合わせも増えたので、本格的に卸し展開に挑戦してみようと思ったんです。

ブランドの公式インスタグラム(@iirot_official)のほか、鳥居さん個人のアカウント(@tnagisa)はフォロワー1.5万人で、そのスタイリングにファンが多い。

迫村 鳥居さんのSNSをチェックしながら、卸しをせずに自分で売っているのは今の時代に合っているな、と思っていました。それが、あるとき他のショップで取り扱いが始まり、うちも買い付けしなきゃと慌てたんですがすぐにはできなかったんです。でも卸し先を見ると、僕の後輩がオープンした京都の「COMES THE SUN」とか、ちゃんといいお店を選んでいるなと感じました。ご自分のアトリエを開放してお客様を呼んでいるのも含め、すごく今のスタイルに合っているし、そこから効果的にブランドが浸透していっているように見えました。自分から売ろうとせず、欲しい人がいてその人が信頼できるなら売る、みたいな方法はブランドとしてブレがないんだろうなと。

鳥居 そうですね、ブレがないという点は自信あります。

迫村 鳥居さんがどうやってブレずにブランドを続けているかとか、どういうきっかけで服のデザインを始めたのかとか、今日はいろいろ聞いてみたいと思っています。じつは最近までIIROTがTORIIの逆だということに気づいていなかったです……(笑)。

鳥居 やっと気づいてくださったんですね!(笑) でも気づいていない方のほうが多いかもしれないです。

「古着は好きですか?」という質問に「ニットだけ興味がある」という鳥居さん。「昔のニットは編み地が今とは違うから面白い」

迫村 IIROTを始める前はどんなお仕事をされていたんですか?

鳥居 さかのぼると、渋谷109の全盛期のときに人気ブランドの販売員をしていて、そこで2年くらい働いていました。そうしているうちに自分のポジションが上がってきて、そろそろお店をまかせてもらえるという段階でした。服が好きでファッションに関わる仕事を始めたので、当時は数字やスタッフの管理ではなく純粋に服のことだけに携わっていたかった。そんなときにちょうど本社からデザイナー募集のお知らせがファックスで届いたんです。

迫村 ファックス!?(笑)

鳥居 そういう時代でした(笑)。その募集を見た瞬間、これだ!と思いました。全国の店舗からデザイナーを目指す人たちが応募してすごい倍率だったのですが、それに受かってデザインの仕事に関わるようになりました。

迫村 受かったポイントは何だったと思いますか?

鳥居 あとから聞いた話ですが、当時の会社のトップが、普段から販売員としての私の試着販売のセンスを見ていて、最初から目をつけていてくれたらしいんです。そのトップはとにかくセンスを重視し、仕事が出来るか出来ないかよりも、センスがあるかどうかを見る方でした。常に目を光らせているので、毎日着るものにはすごく気を使いましたね。一緒に出張に行くと、必ずハイブランドのショップに連れて行かれるんです。当時はまだ20代前半だったので、ハイブランドにはあまり興味がなかったのですが、それでもいい服をたくさん見て、試着して、生地やつくりを実際に確認しなさいと言われて、それを実践していたので、おのずと感度が高まるように育ててもらったのだと思います。

「この値段でここまでのものづくりができるのはすごいと思う」(迫村)、「ものづくりの質をもっと上げていくのが目標」(鳥居さん)

迫村 企画やデザインについても厳しく意見されましたか? 何年くらいその会社にいたんですか?

鳥居 プレゼン内容や上がってきたサンプルに対して、いいところはほめてくれるし、そうでないところは厳しく指摘されました。必ず次なる目標を与えてくれるので、進むべき道を示してもらっているような感じでした。結局会社には13年いましたね。

迫村 13年間でデザインの方向性は変わりましたか?

鳥居 だんだん年齢を重ねると共に、使いたい素材やデザインがブランドに合わなくなってきたので、途中で新しい大人向けのブランドのディレクターになりました。そのあと自分のブランドも持たせてもらったんです。小さなブランドではありましたが、クリエーションよりも費用対効果や数字が大事にされていました。自分としてはとにかくいいものを作って世の中に提案するほうが先だと思っていたのと、13年も会社員だったので外に出て新たに勉強したいという気持ちもあり、会社を辞めてフリーランスのデザイナーになりました。

迫村 フリーランスになって、どんな仕事をしていたんですか? そこからどういう流れでIIROTを立ち上げることになったのですか?

鳥居 いくつかの会社で業務委託というかたちで企画をさせていただいているうちに、だんだん自分が着たいものが明確になってきたんです。日頃から自分が着たい服をデッサンして残してあったので、それを見返してみたら、今の世の中にはあまりなさそうなシンプルでミニマルな服だから、もしかしたら欲しいと思う女性がたくさんいるんじゃないかと直感で思いました。それで特に特別な準備をせず思いのままにスタートしたという感じですね。

迫村 フリーランスとしていろいろな会社で服を作ってみて、デザインに対して何か考えが変わったりしましたか?

鳥居 業務委託という立場ではあるものの、私のセンスを信頼してまかせてくださっていたのですが、やはり先にテーマがありそれに沿ってデザインをするので、どうしても自分が不得意なテーマもあるし、自分の考えとは違う素材やデザインを提案しなければいけないときもあります。でもそういうことを繰り返しているうちに、だんだん自分の中で答え合わせができるようになったんです。こういう生地でこんなふうに作ったら刺さる人が多いだろうなとか。私はマーケットに欠けている服、でも必ず求めている女性たちがいる、そんな服を作りたかったので、自分が作りたいものの答え合わせをしているうちに、ブランドを立ち上げたらいけるかもしれないと思い始めました。

BIOTOPがIIROTに別注したステンカラーコート。カシミヤ混のSuper’100ウールにリバービーバー加工を施した素材が軽くて着心地抜群。袖と襟の裏のブラックレザーがポイント。11/10(金)より、BIOTOP大阪店で発売。¥85,800

迫村 IIROTの服は、ひねりがあるのにそのさじ加減が絶妙で、ちゃんと受け入れられる服に仕上がっている。そのセンスというか、ファッションとしての全体のバランス感が本当にかっこいいと思っています。

鳥居 本当ですか? すごくうれしいです。そこを一番大事にしているので。どんな素材を使ったら構築的なシルエットになるのか、なぜこの服は売れているのかといったリサーチもしながら、いい服のエッセンスを知りたいんです。どうしたらもっと自分が着たい服になるかを追求しています。

迫村 そのセンスは一体どうやって育ったんだろう……。子どもの頃から服に興味があったんですか?

鳥居 父が浅草で靴のデザインと製造業を営んでいて、両親ともファッションが大好きでした。私たち三姉妹は幼い頃から買い物に連れて行かれていたんです。だから家族の食卓は、いつも服やブランドの話でしたね。入学式のときなどには母が服を作ってくれるんですが、それをずっと横で見ていました。あとはバービー人形が大好きで何体も持っていて、集めた服や靴をクッキーの空き缶にたくさん並べていました。そこから始まっているのかも。

迫村 なるほど、ずっとファッションに囲まれて育ってきたわけですね。納得しました。今はどんな環境で服のデザインを考えているんですか?

鳥居 制作期間に入ると、逆に一切服を見なくなるんです。旅に出て頭をクリアにし、景色や自然の色からインスピレーションをもらうことが多いですね。情報のないところに行ってタブレットでずっとデザインを描いているのが好きです。

「旅も好きですが、やはり一番の趣味はファッション。仕事ですが、自分の好きなものだけ作っているので、楽しいです」(鳥居さん)。それがブランドのブレない姿勢に繋がっている。

迫村 10月はパリにいらしていましたが、何か収穫ありました?

鳥居 会社にいた20代の頃はNYブランドが大好きで、NYばかり行っていたんですが、独立してからは旅に出る時間がなくて。ようやくスタッフも増えてまかせられるようになったので、久しぶりに旅に出ようというタイミングで思いついたのがパリでした。フランスは初めてだったのですが、私の過ごし方はいつもと一緒で、パリではギャラリーを巡り、その後ノルマンディー地方の田舎に行ってゆっくり絵を描いたり。建築や自然の色使いを勉強したかったので、そういう意味でフランスに行きたかったのかなと思います。

迫村 次のシーズンの服にどう影響するのか楽しみですね。IIROTのこれからについて聞かせてほしいです。

鳥居 一人で立ち上げてからもう5年、いやまだ5年。ようやくスタッフも加わり、シーズンを重ねるごとに手応えを感じています。伊勢丹新宿店3階ステージでポップアップをしたり、ずっと好きで客として訪れていたBIOTOPに服を置いていただけたりと、一つずつステップを上がっている段階なので、広げていくというよりは、ものづくりの質をもっと高めていきたいですね。長くおつきあいしていただけるよう、ブランドとしての安定感を築いていきたいです。

迫村 5年でここまでってすごいです。実際うちでもとても評判がいいんですよ。インポートの服と組み合わせて買ってくださるお客様が多いです。

鳥居 私は、自分のクローゼットにはインポートのブランドと、それに引けをとらない品質で買いやすい価格のブランドの両方があったらいいなとずっと思っていました。価格はもちろんですが、やはり求められているのはデザインと素材の良さだと思うんです。それがIIROTを始めた理由の一つでもあるので、インポートと組み合わせて買ってくださるなんて感無量ですね。BIOTOPのお客様はライフスタイル全般を大事にしていて感度が高いというイメージがあるので、そういう方たちにIIROTを着ていただけたら本当にうれしいです。

Photo/YOSUKE EJIMA Composition/AYUMI MACHIDA

鳥居なぎさ
Nagisa Torii

「IIROT」(イロット)デザイナー。1980年、東京都生まれ。国内アパレルブランドでデザイナーを務めた後、独立。フリーランスデザイナーとして、さまざまなブランドに携わる。2018年にウィメンズブランド「IIROT」を立ち上げる。
https://iirot.jp

Interview with

BIOTOP ディレクター
迫村 岳

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