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BIOTOP PEOPLE

No.17 SEIJI NAITO

京都の老舗履物店が、和の精神と現代の感性で生み出した
ビーチサンダル「JOJO」の、BIOTOPでの取り扱いが始まった。
伝承の知恵を生かしながら、履きやすく、美しく、
日本的な佇まいをたたえながらも、ポップでフレッシュ。
着物にもモードにもあう、まったく新しいサンダルを考案した
「祇園ない藤」の店主・内藤さんに会いに、京都を訪れた。

「祇園ない藤」五代目の内藤誠治さん。ていねいな手仕事によって作られる履物は、能・狂言・歌舞伎の役者さんや伝統芸能に携わる方々、女優、作家、学者など目利きのお客様から長年愛されてきた。

迫村(以下S) 「ない藤」の歴史はどのくらいになりますか?

祇園ない藤(以下N) 140年になりますね。最初は西陣のほうで店を構えていて、いまの場所に移ってからは85年。私で五代目になります。

S 何歳くらいで家業を継ぐと決めたんですか?

N 幼稚園の卒園の頃には「将来は履物屋さんになります」と言っていましたね(笑)。そう言うと周りの大人たちが「いい子や」ってほめてくれるから(笑)。「いい跡取りはんがいはっていいですねえ」とか近所のおばさんにも言われ、その期待に応えるのが正しいんだ、と子供ながらに思っていました。

S すごい責任感ですね。それで実際にいつ頃から修行して、どのくらいで作れるようになったんですか?

N 手を動かし始めたのは大学に入ってからなので18歳くらいです。物作りに関しては、3年くらいで一通り流れを覚え、5〜6年してなんとかひとりでできるようになる、という感じでしょうか。小さい頃から見ているというのもありますが、失敗しても自分で弁償しなくちゃいけないっていうプレッシャーがないから思いきって作れたこともあって、覚えは早かったと思います。

S 30年くらい履物を作ってきて、その間に培ってきた技術を広く発信する「mana PROJECT」を発足されましたね。その第1弾が、ビーチサンダルの新しいカタチを提案する「JOJO」。どんなタイミングで思いついたんですか?

N 漠然としているんですが、30歳くらいから「何かやりたい、何かもっとできるんじゃないか」って鬱々と考えていたんです。2012年に訪れたインドで、日本の履物をルーツとするゴムぞうりを再生させよう、と思い至ったんですが、インドに行く前から、ぞうりを違う素材で作ろうとして工業デザイナーに相談を持ちかけていました。

BIOTOPディレクターの迫村は、内藤さんに会う前からJOJOのことが気になっていたそう。たまたま紹介されてJOJOを作った方だと知り感激したという。

S 完成品に至るまで試行錯誤されたと思うんですが、デザイン的な方向性は最初と比べて変化しましたか?

N 最初からほぼいまの形ですね。基本的には変わっていません。

S では最初に考えていたものが、ついに具現化されたというわけですね。こういう人に、こういうシーンで履いてほしいとかイメージはあったんですか?

N ふつうはターゲットとかコストとかマーケティング的な青写真があって作ると思うんですが、ただ作りたくて作ったので、一切そういったことを考えなかったんです。それが逆によかった。着物でお店にいらしたお客様がJOJOを試されたらとても似合っていて、あれ、意外と着物にもあうんだな、と初めて気づいたくらいです。和装から逃げたつもりがぜんぜん逃げられなかった(笑)。見たことないから欲しいとおっしゃる方もいれば、なつかしいからと買ってくださる方もいる。結果的に20代から80代まで、日本だけなく外国でも幅広く受け入れられて、とてもうれしく思っています。

140年超の歴史を持つ「祇園ない藤」は、着物好きなら誰しも憧れる履物店。美しさと履き心地の良さを兼ね備えた履物を作り続けている。●祇園ない藤 京都市東山区祇園縄手四条下ル ☎075-541-7110 営業時間10時30分〜18時 不定休

S 作るときにいちばんこだわった点は何ですか?

N いちばん困ったのは、指股を入れる前坪の位置。ふつうのビーチサンダルは親指側に寄っているんですが、できるだけ中心に置きたかった。そのほうがかかとが少し内側にずれて見た目が美しいんです。そして指股が触れる部分の素材が、最初はゴムだったんですが、出来上がってみたらけっこう固い。そうしたら工場の方が、哺乳瓶の口に使う特殊なゴムを教えてくれて、これが抜群の安定感を生みました。

S 履いてびっくり、ぜんぜん痛くありませんね。

N 第一号は殺人的に痛くて、ちょっと歩いただけで出血する人が続出しました(笑)。素材を変えただけで劇的に履き心地がよくなりました。

S これはクセになりますね。指股がまったく痛くないのもそうなんですが、足の裏が触れるコルクの感触も気持ちいい。

N このコルクの素材が見つかったのも奇跡で、なかなかこれといった素材が見つからず納品も迫ってきた段階で、たまたま職人頭が見つけてきてくれたんです。パワフルコルクといって、コルクの質感なのに水で洗ってもボロボロにならない素材です。ふつうのビーチサンダルだとラフ過ぎるし、かといって普段着に雪駄やぞうりというのもちょっと変わっているし、ビルケンシュトックのように、リラックスしながらきちんと見えるサンダルをめざしました。

BIOTOPグリーンを使用した別注のJOJO。 JOJOコルクソール XS・S・M : 23,000円、L・ XL : 24,000円

S 初めて内藤さんにお会いしたのは、1年以上前ですよね? BIOTOPのアーヴィングプレイスでお話させていただき、とても気さくな方でほっとした覚えがあります。「五代目」という響きにも緊張して、きっと京都の頑固な職人さんだろうと想像していたから(笑)。

N 「拙者は」とか「ござる」とか言うかと思いました?(笑)

S 2回目にお会いしたのは、日本橋三越のイベントに伺ったとき。あそこで空間デザインのHIGASHI-GUMIを率いる東亨さんを紹介してくださって、そのまま食事にも同席させていただいた。先輩方が恐ろしく文化度の高い会話をしていらして、聞いているだけで刺激的でした。内藤さんの作品と、HIGASHI-GUMIの作る空間にとても興味が涌いて、BIOTOPでもいつか何か一緒にできるといいですね、と話をしました。それからゆっくりゆっくり進めていって、ついに3月10日からBIOTOPでのポップアップイベントが実現します。HIGASHI-GUMIには、80年代に活躍されたフォトグラファー横須賀功光さんの息子さんがいらして、お父様の作品を展示してくださるので、面白いコラボレーションが実現しそうです。

N 横須賀さんの写真は、資生堂の山口小夜子さんのポスターなど一世を風靡しましたが、いま時代が変わり商業写真もアートになりつつある。その節目を目撃できるのが面白いです。自分がまだ幼かった80年代にコマーシャルとして見ていたものが、時間を経て新しい価値観に変わっている。履物だって50年くらい前には日常的に使っていたんですが、いま形を変えてまた皆さんに履いていただけるというのも、どこか共通しているような気がします。

S HIGASHI-GUMIとの仕事は長いんですか?

N いままで何度かイベントをさせていただきましたが、JOJOの発表のときからいつも空間デザインをHIGASHI-GUMIにお願いしているんです。「ない藤」は古典的な履物という日本文化とつながりながらJOJOを提案する、HIGASHI-GUMIは空間を作るだけではなく、アートや本などさまざまな素材とつなげて新しい価値観を提案する。JOJOと横須賀さんの写真が直接結びつくわけではないけれど、どちらも実験をしていて、その思いや次の時代へのチャレンジという意味では共通点があると思っているんです。

S 以前、青山の書店で、写真とともにJOJOの展示会をやってらっしゃいましたが、サンダルだけで見るときとはまた違う印象を受けました。この写真とのつながりは何なんだろうと想像をめぐらす面白さ。今回のポップアップでもそういう、いい意味での違和感を伝えられたらいいなと思います。

N そうですね。5年、10年して振り返ったときに、そのとき当たり前にある何かが、そうかあのとき始まっていたんだね、ってなるといいですね。瞬間的に売るためだけにビジュアルを作るコマーシャルの時代はもう終わっていると思う。知らぬ間にイメージが浸透している、なだらかに確実に認識を広げていく、というつながりを作っていくことが何より大切なのではないかと。そのきっかけがHIGASHI-GUMIやBIOTOPとのイベントにはあるんじゃないかと期待しているんです。

S ところでBIOTOPのスタッフに、JOJOを自由に履いてもらったら、ハイファッションにもカジュアルにも何でも合うのでびっくりしました。BIOTOPのセレクトと相性がいいので、きっとお客様にも気に入っていただけそうな気がします。

N じつは東京でどこのショップにJOJOを置いてもらったらいいかなと考えていたとき、仲間うちで一番おしゃれな人間に聞いてみたら、絶対BIOTOPだと言われた。それでどんな感じの店だろうと見学に行った唯一のショップがBIOTOPだったんですよ(笑)。そこからお声をかけていただいたのは、何かの運命かもしれません。

S これはきっと、ポップアップイベントで驚くような化学変化が起きそうですね!

「JOJO」の由来は草履の方言「じょじょ」。童謡「春よ来い」の歌詞にも「赤い鼻緒のじょじょ履いて」と登場している。写真のコルクソールのほか、スエード調ソールでオールブラックのJOJOもあり。

Photo:Shimpei Hanawa Composition/Ayumi Machida

祇園ない藤

140年超の歴史がある京都の老舗履物店。ひとりひとり採寸し、花緒300種類、台5000種類を超える品揃えから、使い手と用途にあう履物を仕立てる。現在の店主・内藤誠治さんは五代目。物作りに対する徹底した美意識と伝統の技術を生かして、世界に発信するコンテンポラリーな履物のカタチ=「JOJO」というビーチサンダルを考案。

http://gion-naitou.com

●POP-UP SHOP INFORMATION
「JOJO+Noriaki Yokosuka at BIOTOP」
期間:3/11(FRI)〜3/27(SUN)
京都の老舗履物店「祇園ない藤」が手がける“JOJO”のPOP-UP SHOPと、
フォトグラファー横須賀功光氏の写真展を同時開催します。履物のようにその土地の文化を色濃く映すものを通じて、世界中とコミュニケーションができるモノづくりと、高い次元で写真の可能性を追求し続けた世界的に影響力のある横須賀氏の作品。この異なるジャンルながら共通点のあるふたつの要素を、HIGASHI-GUMIによる空間演出で展示。期間中は、BIOTOPがJOJOにカラー別注した限定モデルや、横須賀氏の作品(モダンプリント)の中から厳選された12点を展示・限定発売いたします。

Interview with

迫村岳
(BIOTOPディレクター)

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