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BIOTOP PEOPLE

No.16 Patrick Grant

Patrick Grant
BIOTOP PEOPLE No.16 Patrick Grant E.TAUTZ(イー・トーツ)デザイナー
サヴィル・ローのテーラリングと、スポーツマインドあふれる
ラグジュアリーなカジュアルが人気。
イギリスだけでなく、世界中の服好きな男性たちの心を掴むE.TAUTZは、
服のみならず、デザイナーであるパトリック・グラント氏の
エレガントな佇まいとインテリジェンスも憧れの的。
12回目という来日中に立ち寄ったBIOTOPで、インタビューが実現した。

Patrick Grant氏は、UKの各メディアでベストドレッサーの常連。彼自身の着こなしもいつも注目を集める。

迫村(以下S)この間、久しぶりにコレクションを拝見させていただいたのですが、すごくよかったです!ワイドパンツはやはり印象的だし、それぞれのルックも完成されていて、カラーパレットがとても美しかった。スーツの印象が強いブランドですが、今回はBIOTOP にぴったりなデイリーなアイテムが増えていたので、ぜひまた取り扱いをさせてほしいと思ったんです。

Patrick(以下P)とてもうれしいです。でも、じつはビジネスの割合としてスーツはとても小さくて、E.TAUTZは基本的にシンプルでラグジュアリーなスポーツウェアのコレクションだと思っています。もちろんテーラーとしてスタートしていますし、スーツは作り続けますが、これからは自分たちが着たいと思えるリラックスラグジュアリーもめざしていきたい。

S 僕がロンドンのショールームで初めてパトリックに会ったとき、本当にかっこよくスーツを着こなしていて感動しました。そのあとも何度かお会いしたけれど、いつもスーツにきれいな色のソックスをあわせていますね。その着こなしもまた憧れて、いつかスーツを扱いたいなと当時は強く思ったものです。ええと…、何色のソックスでしたっけ?

P ブラントなピンクですね(笑)。

S そうだ、ピンク!なかなか日本人には真似できない(笑)。

P 私にはユニフォームが2つあるんです。サヴィル・ローで働いているときはスーツにネクタイ、そしてピンクのソックス。サヴィル・ローにいらっしゃるお客様は、そういったスタイルを期待していらっしゃるからです。それ以外の時間、スタジオやE.TAUTZのショップにいるとき、または旅に出るときには、ワイドパンツにネイビージャケットというようなスタイルです。男性は皆、いろいろなユニフォームを持っていると思うけれど、私は最終的にこの2つに落ち着きました。

「Patrickはいつもスーツがビシっと決まっているイメージだけど、今日みたいなカジュアルなスタイルもかっこいい」とBIOTOPディレクターの迫村。

S そこに行き着くまでに、どんな人生を歩んできたかすごく興味があります。パトリックは確かエンジニア出身で、ファッションの専門学校には行っていないんですよね?

P はい、大学ではマテリアルサイエンスとエンジニアリングを専攻、卒業後はテクノロジー関係の会社でエンジニアとしてマーケティングや商品開発をし、そのあとオックスフォード大学でMBAを取りました。人生を変えるアクシデントが起きたのはその後です。ある日、新聞に載っていた小さな記事に目が止まった。サヴィル・ローのNORTON & SONSが売りに出たという内容です。どうしても欲しいと思い、すぐに家も車も売り払って、その小さなテーラーを買ったのが10年前。それが私の新しいスタートでした。

S エンジニアからサヴィル・ローへ。すごい転換でしたね。そこからファッションの勉強を始めたのですか?

P いや、じつは幼い頃から頭の中はいつもファッションのことばかり。5歳くらいからネクタイを締めるのが好きだったし、10代の頃は、寮の部屋の壁にヴォーグのファッション写真をピンナップしていました。私は人生を通してずっとファッションのことを考え、勉強し、ハンドメイドや伝統的なブリティッシュブランドを愛し続けてきました。だからNORTON & SONSの広告を見たときに「これだ!」と思ったんです。

S そしてその後、NORTON & SONSの傘下にあったE.TAUTZを復活させたわけですね。

P E.TAUTZは1867年にエドワード・トーツが始めたブランドです。彼はニッカボッカを発明した人で、乗馬、ハンティング、ゴルフ、ポロなど、さまざまなスポーツウェアを作っていました。ウィンストン・チャーチルもお気に入りだったそうです。第二次世界大戦後の不況で経営がうまくいかなくなったのですが、それを1968年にNORTON & SONSが買い取った。そんな長い歴史と伝統のあるスポーツウェアのブランドにとても興味が涌き、2009年にプレタポルテラインをスタートさせたのです。E.TAUTZではスポーツ、ミリタリーという創業時のコンセプトを大事にしながら、自分が着たいものを作ろうと思いました。日本や中国、北アフリカなど旅先でインスピレーションを受けることもあります。イギリスを中心に、すべての場所、人、カルチャーがインスピレーション源なのです。

キム・ジョーンズやクリスチャン・ルブタン、リチャード・ニコル、〈ラグ&ボーン〉のマーカス・ウェインライトとデイヴィッド・ネヴィルなど、多くのデザイナーたちと親交があるという。

S パトリックによるE.TAUTZのリ・ローンチは本当にセンセーショナルでした。ところでお会いしたらぜひ聞いてみたいことがあったんです。日本では、若い人のスーツ離れが進んでいますがサヴィル・ローではどうですか?

P 同じことが起こっていますね。仕事ではスーツを着るけれども、ふだんは着心地を重視した服を選ぶようです。いいレストランに行くときもスーツでなく、ジャケットとトラウザー、オープンネックのシャツといったスタイルが主流になってきている。E.TAUTZのショップでは1階がカジュアルで地下がスーツを扱っていて、どちらのスタイルも対応できるようにしています。

S 初めてサヴィル・ローに行ったとき、なんてかっこいい場所なんだろう…と、男として身の引き締まる思いがしたのを覚えています。日本にはない、あの緊張感。どんな形でも残っていってほしいと思いますね。

P 絶対残ると思います。1年に300着くらいしか作らないので、ビジネスとしては小さいけれど、うちで作るスーツでどれだけ特別な気分が味わえるか、皆さんよくご存じですから。その気分が受け継がれて、スリーピースにタイを締めてポケットチーフを入れた若者が現れてきたらうれしいですね。

BRUCE PRINT SPORT SHIRT ¥58,000

S お住まいはロンドンですか?

P はい、ふだんはロンドンですが、昨年4月に北イングランドのブラックバーンに工場を買ったので、行ったり来たりしています。E.TAUTZはすべてイギリス製ということにこだわっているので、工場はとても重要。ブラックバーン周辺はコットン生産地なのでいい素材が作れるんです。今後は従業員をもっと増やして工場を拡大したいと考えています。工場があることで地域の発展にも貢献できますしね。

S 20年くらい前ですが、リバプールだかマンチェスターだか忘れましたが、対ブラックバーンのサッカーの試合を見たことがあるので、町の名前は知っていました(笑)。

P ブラックバーン・ローヴァーズですね!20年くらい前ならアラン・シアラーが活躍していた。

S そうそう、いまでいうルーニーのようなストライカーでしたよね? シアラーが見たかったのに、前半で交替になっちゃったんです…(笑)。パトリックはどんなスポーツが好きですか?

P ラグビーをやっていて、U-18ではスコットランド代表でした。ところで昨年、ラグビーのワールドカップでの日本VS南アフリカの試合は素晴らしかったね!感動しました。ラグビー以外だと、クリケット、ホッケー、テニスをやるし、オックスフォード時代はモダンペンタクロン、フェンシングなども。コッツウォルズにコテージを持っていてたまに行きますが、そこでサイクリングとかハイキングなどもします。

S 東京には何度もいらしているということですが、好きな場所はありますか?

P はい、今回で12回目くらいでしょうか。上野の国立美術館、森美術館、あちこちのギャラリーなどによく行きます。日本には面白い建築もたくさんありますね。京都も大好き。テキスタイルやセラミックなどの素材もいろいろ見て歩きます。シンプルな形と凝ったディテールにインスパイアされるんです。日本の美学が好きなので、何度きても新しい発見がある。目にするすべてのものは私の仕事に生かされていると思います。

S ショッピングもされますか?

P ロンドンのデイリー・テレグラフ新聞で「世界の好きな場所」を6カ所挙げろと言われて、その中のひとつにBIOTOPを入れたんですよ。すごく雰囲気がいいし、カフェも、ツリーハウスも、扱っている商品も大好きです。

S ありがとうございます。さて、まもなく店頭にはE.TAUTZの春夏ものも並びますが、今シーズンはどんなテーマですか?

P 2016年SSのテーマは「The Skylon」。戦後の低迷からようやく抜け出そうとしていた50年代のイギリスで、人々の心をとらえたのはモダニズムでした。その象徴だったのが、戦後の復興を盛り上げるために建設されたSkylon という細長い建築物。暗い時代を抜けて希望に満ちあふれた雰囲気の中、復活したレジャーウェアを表現しました。50年代に流行ったホリデーキャンプなどもイメージしています。BIOTOPのお客様に気に入ってもらえたらうれしいです。

(左)2016春夏コレクションではこの淡いピンクをはじめ、ブルーやイエローなどの美しいカラーパレットとベーシックカラーのコンビネーションが印象的

(右)BRUCE PRINT SPORT SHIRT¥58,000、CORE FIELD TROUSER¥44,000

Photo/Ittoku Kawasaki Composition/Ayumi Machida

E.TAUTZ

1867年に創業したイギリスのブランド。2009年にパトリック・グラントによってリ・ローンチし、2010年にはイギリスのメンズウェア・デザイナー・オブ・ザ・イヤーに選出された。「ブリティッシュ・クラフトマンシップ」にこだわり、素材もすべてイギリスで調達、スーツだけでなくニットもイギリスの職人たちが手がけている。

Interview with

迫村岳
(BIOTOPディレクター)

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