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BIOTOP PEOPLE

No.20 HIROMI YOSHII

HIROMI YOSHII
BIOTOP PEOPLE No.20 HIROMI YOSHII hiromiyoshii ropponngi オーナー&ディレクター
ファッション、グリーン、フード、ビューティと
エシカルな複合型ライフスタイルショップであるBIOTOPが、
新たな試みとしてアートとのコラボレーションを実現。
このイベントをキュレーションするのが、90年代からさまざまな
アーティストを世に送り出してきた吉井仁実さん。
今のアートの流れや、BIOTOPのためのキュレーションの狙いなどを聞いた。

迫村(以下S) BIOTOPでは今までさまざまなポップアップをおこなってきたのですが、「アート」をテーマにするのは今回が初めてになります。僕は、有名な作品ならまだしも、なんとなくアートは難しいという先入観があったのですが、お話させていただくようになって、もっとカジュアルに接してもいいんだと思えるようになりました。じっさい最近では、気軽にアートに触れる場所なども多く、アートとの距離感は縮まってきているように感じるんですが。

吉井(以下Y) そうですね。ここ15年くらいを振り返ってみても、森美術館とか国立新美術館、21_21 DESIGN SIGHTとか、面白い展示をする美術館が増えましたし、昔よりも気軽にアートに親しめる環境が整ってきていますよね。さらにアートや建築、ファッションなどがお互いを評価し合うようになり、壁が取り払われてきたように感じます。

S ラフ・シモンズなどもそうですが、服にアートを取り入れるデザイナーも増えてきましたね。最近もディオールやセリーヌとか。

Y ルイ・ヴィトンが村上隆さんとコラボしたのは14年くらい前ですが、その頃から本当にアートとファッションの距離は縮まりました。もともと近い存在ではあったけれど、ファッションを通してアートがより身近になったんじゃないかな。村上さんもルイ・ヴィトンによって一般的に認知されたし。草間彌生さんもそうですよね。

S ファッションを介して知らなかったアートに触れられるのは嬉しいです。

Y セレクトショップでも、15年くらい前から、パリのコレットがアートを絡めたイベントをするようになり、そこに「食」も融合していきました。まさにBIOTOPもそうですよね。ファッションにグリーン、カフェ、そして今度はアートも取り入れようとしている。

S はい。だから今回のポップアップ「BIOTOP Gallery Shop」は、どんな化学反応が起きるか僕も楽しみにしているんです。

「吉井さんと話しているとアートが身近で楽しいものだということに気づかされる」というBIOTOPディレクターの迫村。この日の吉井さんはコム デ ギャルソンのシャツで登場。

S ところで、吉井さんはなぜギャラリストになりたいと思ったのですか?

Y 親がアートの仕事をしていたので、幼い頃から興味はありましたが、自分もアートの仕事に就くかどうかは決めていませんでした。しかし、周りにアーティストやアート関係者がたくさんいて、皆面白い人ばかりで非常に興味深い話を聞く機会も多く、次第に引き込まれていきましたね。

S お父様のギャラリーは印象派と近代美術で有名ですが、吉井さんは現代美術ですね。

Y 時代の流れがちょうど現代美術に向いていたんです。だから自然に現代美術に興味を持ったんだと思います。

S 最初に面白いと思ったアーティストは?

Y すごくお世話になった方なんですが、オン・カワラ(河原温)さんですね。50年代後半に日本を離れ、60年代からNYを拠点に活躍して2014年に亡くなりました。彼のコンセプチュアルアートによって「概念」の重要性を学びました。日付だけを描いていく「Today」シリーズが有名で、あとは「I read」「I met」「I went」といってその日に読んだ記事・会った人・行った場所を記録した作品も面白い。まさに概念をアートにしていく人です。

S 現代美術を海外に紹介する仕事って難しそうなイメージですが。

Y ちょうど僕がこの仕事を始めた時期は、杉本博司、村上隆、奈良美智……など、日本人アーティストが世界で評価を受け始めた頃と重なっているので、そういう意味ではやりやすかったですが、それで日本人アーティストの作品の値段が上がり始めて、きちんとブランディングしていかなければいけないという難しさはありましたね。

S 日本人アーティストが注目された背景とはどういったものなのでしょう?

Y 杉本さんは違いますが、村上さんや奈良さんの絵は、一見アニメやイラストのような作風。世界が幼児化して「カワイイ」に夢中になった、そういう流れに乗ったのではないでしょうか。ああいった作風の人たちは他にいなかったから衝撃的だったと思います。

S 90年代後半から00年代にかけてですね。その流れはどう広がったんですか?

Y 建築やファッションも含め、日本人アーティストたちが世界に羽ばたいていく弾みがつきました。SANAAがNYのニュー・ミュージアム・オブ・コンテンポラリー・アートを作ったり、MOMAの改装を谷口吉生が手がけたりするなんて、夢のようでしたね。日本のファッションブランドだって、SOHOとかチェルシーに次々進出していったし。日本のクリエイションが世界で注目されるようになりました。この流れは続いていて、これからはアジア全体のアーティストが注目されていくと思いますよ。

BIOTOP Gallery Shopではアーティスティックな器も取り扱う。上段左/陶芸家の吉田直嗣の器は、BIOTOP別注カラーのグリーン。上段右/ルーシー・リーのボウル。下段左/アンティークのバカラのデカンタ、グラス。 下段右/サン・ルイ「ティスル」シリーズのリキュールセット。

S メトロポリタン美術館では今、川久保玲展を開催していますね。

Y 絵や写真や彫刻などだけがアートじゃない。洋服だってアートだと知らしめました。逆に現代美術のアーティストが洋服を作ることも、これからはあるのかもしれない。壁がどんどん取り払われていくと、見る側・買う側の視点、審美眼がさらに求められるようになるでしょうね。

S 吉井さんはどうやって次なるアーティストを見つけるんですか?

Y 直感ですかね(笑)。あとは、信頼している評論家やコレクターからの紹介や、ファッションでいうところのパリコレみたいな、ヴェネチア・ビエンナーレや横浜トリエンナーレなどの国際美術展で探したりします。

S 選ぶ基準はなんですか?

Y やはりオリジナリティでしょうか。アートの世界はトレンドがないように思われがちなんですが、時代感覚は必要なんです。そういうものを汲み取ってオリジナリティを出していくことが必要だし、一方でアートの歴史の中のどこに自分が位置づけられているかを明確にわかっていることも大事。そういうバランス感覚のある人はなかなかいないですけどね。バランス感覚だけ長けているとコマーシャルっぽくなるし。

S アートフェアってオークションとは違うから、基本的には提示された金額で買えるんですよね?ということは早いもの勝ち(笑)?

Y 一応そういうことになりますが、いいお客様には、ファーストチョイスといって特別な時間帯が設けられているんです。一般のお客様が見られるのはそのあとになりますね。各ギャラリーがお得意さんをご招待するんですが、アート・バーゼル(アジア最大級のアートフェア)なんかだと、各ギャラリー1通ずつしかなかったりして、しかもお得意さんは被っていたりしますね。今、ファーストチョイスって1/3くらい中国圏の人だと思います。

S 客層も変わってきているということですね。

Y そうですね。アジアの人が増えているし、何といってもおしゃれな人が増えています。

S あ、アートフェアとかミラノサローネとか、ファッション以外の展示会に来ている人がおしゃれだっていう噂は、僕も聞きました。

Y この4〜5年くらいですが、欧米のちょっとしたアートコレクターにはアートコーディネーターがいて、さまざまなコーディネートをするんです。身なりもパーソナルスタイリストがいてちゃんとコーディネートされている。アートを扱うのにファッションに無頓着でいるわけにはいかないんですね。僕だって好きなアーティストがどこかのブランドとコラボレートすると聞いたら、買って着たいと思いますから。まだそれほど注目されていなかった頃のアンゼルム・ライルというアーティストがディオールとコラボすると知って、すごく興味を持ちました。逆にファッションが好きな人は、アートを知るきっかけになったりするし、これからもファッションとアートはますます近い関係になるでしょうね。

篠山紀信写真集「食」のビジュアルを使ったBIOTOPオリジナルのTシャツ(写真左)各¥8,000+tax、トートバッグ各¥4,900+tax篠山紀信氏のサイン入り額装ポスターも数量限定で発売予定。

S 今回の「BIOTOP Gallery Shop」のために、最初にご提案いただいたのが篠山紀信さんの「食」という写真集でした。BIOTOPは食事もできるし、この写真集の世界をファッションに落とし込んだらどうか、というアドバイスをいただきTシャツやグッズを作ってみましたが、なぜこの写真集だったのですか?

Y 聞いた話ですが、川久保玲さんがアメリカで仕事をするときに、この写真集を持っていって「日本とは」という説明をされたらしいんです。日本の食ってやはりトップレベルでとても豊か。酢豚でもハンバーグでも、和洋中なんでも家庭料理で作ってしまう。そういった日本の文化度の高さもこの写真集は伝えている。BIOTOPはライフスタイルショップとして、ファッションだけじゃなく食も大きな存在だし、この写真集にはファッションが好きな人が共感する感性があると思いました。

S 昔からBIOTOPにはいらしてくださって、よくご存じだからこその発想だと思いました。

Y 余談ですが、以前マイアミのアートフェアに行ったときに、ホテルの部屋でテレビを着けたらトム・フォードが出ていたんですね。自分はいつもデザインするときに誰かをイメージする、と話していた。今回はマーロン・ブランドをイメージしていて、彼が朝起きて二日酔いでボーっとするためのパジャマ、朝食を食べる時のための服、夜のパーティに出かける時のための服というようにシーンを想像して作りました、と。それってわかりやすくていいな、と思ったんです。だから、BIOTOPの3階でお茶を飲み、2階で服を選び、1階で多肉植物を買って帰るような人なら、バカラのアンティークグラスでお酒を飲むかな、とか、テレビを見るんじゃなく古い時代の置物を眺めて歴史に思いを馳せるかな、とか、そんな風に僕も妄想してセレクトしてみました。

S 陶芸家の吉田直嗣さんに別注カラーを依頼するというのも画期的です。

Y 吉田くんの陶芸といったら白か黒だから、BIOTOPカラーのグリーンを見たらファンは驚くと思いますよ。

S 僕も買う予定です(笑)。これを機会に、BIOTOPではどんどんアートな仕掛けをしていきたいと思っています。次は何をしましょうか?

Y 「BIOTOPで買い物して食事する人が住む部屋」というのを作ってみたいですね。リアルなサイズの部屋に、じっさい家具やアートを配置して、クロゼットに服もかかっていて、窓辺にはグリーンもディスプレイされている。海外のアートフェアに行くと、コレクターが自宅に招待してくれたりするんですが、「こんなにトータルでかっこいい人がいるんだな」と驚くことがあります。インテリアから飾ってあるアートから着ているものから食べるものまで、全体としてスタイルがある。ライフスタイルってお金をかけなくてもかっこよくなるんです。BIOTOPが提案しているのはそういうことですよね?

S はい、まさに。それを次の目標にします。僕もいつもお客様を想像しながら商品を買い付けていますが、そういった角度とはちょっと違うので、吉井さんの視点は勉強になります。確かに服を買ったあと、アートも買っていくお客様がいたらいいなと思います。今回のポップアップの反応がとても楽しみです。

Photo/Ittoku Kawasaki Composition/Ayumi Machida

吉井仁実

hiromiyoshii roppongiを運営。銀座の吉井画廊を経て、1999年、HIROMI YOSII EDITION設立。杉本博司、横尾忠則などの版画制作を企画・出版。2001年、ギャラリービル六本木コンプレックスを立ち上げ、現代美術ギャラリーhiromiyoshiiを開廊。2016年アート&サイエンスの専門ギャラリーAXIOMを設立。ART PHOTO TOKYO DIRECTORも務める。

●BIOTOP Gallery Shop のお知らせ
2017年5月20日(土)〜6月18日(日)
白金台のBIOTOPにて、ギャラリストの吉井仁実氏をキュレーターに迎えたアートイベントを開催します。写真作品、アートグッズ、アンティークなどの展示・販売のほか、写真家・篠山紀信氏の写真ビジュアルを使ったオリジナルTシャツやトートバッグ、ポスターや、陶芸家・吉田直嗣のBIOTOP別注カラー(グリーン)の陶器などを販売予定。ファッション、フード、グリーン、ビューティを扱う複合型ショップにアートの要素を取り入れた新しい試みにご期待ください。

Interview with

迫村岳
(BIOTOPディレクター)

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